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今月(4月1日~4月30日)

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シーモア島
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投稿レビュー
  • カードキャプターさくら クリアカード編

    CLAMP

    ひたすら疑問がクリアにならないカード編
    ネタバレ
    2021年5月18日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 16年もの歳月を経て、再連載されたCCさくらの新章。全員のフォルムが丸みを帯びた程度の変化で、あとは長いブランクがあったとは思えないほど、当時の絵柄を忠実に再現されており、さすがCLAMP先生だと感嘆致しました。そんな前作の続きで中学生となったさくら達の成長ぶりを見れて嬉しい!はずなのに、率直な感想を申し上げるとイマイチです...。というのも前作の二編と異なり、この新章、圧倒的に展開が遅く、常に不完全燃焼が続きます。また目標と目的が不明瞭で。例えば、クロウカード編では全カードの回収が目標で、最後の審判を経て新たな主人になるのが目的。さくらカード編ではクロウカードをさくらカードに変換するのが目標で、それらを失わない様にする事が目的でした。が、今回のクリアカード編は無意識の下、さくらの魔力で作り生まれたカードを固着はしますが、それが一体何の意味があるのか、また最終的にどこに行き着くのかが一切明らかになっておりません。終始モヤモヤして、読者のクリア感はゼロです。
    更に、念願の両想いとなった小狼とさくらですが、期待以上の甘い蜜月を過ごす...こともなく、胸熱シーンやお色気シーンは皆無。稀に視線を熱く絡めたりハグしたかと思えば、知世かケロちゃんに邪魔されて進展ナシ。さすがに戦いの渦中といえど、唇どころか、ほっぺにチューのひとつもないとは中学生が聞いて呆れます。ほえほえ言ってないで大人の階段も登ってほしい...。
    さて、10巻以降の展開としては、クリアカードというだけあって、これまでのさくらの魔力や立ち位置的存在がクリアになる、つまり消えてしまう事になるのではないかと考察します。そして昼夜逆転する様に、瓜二つに作られたであろう秋穂とさくら本人が入れ替わり、今度は秋穂が新たなカードを掌握し、温かな家族と友人、好きな人に囲まれた未来を送る。そんな世界を海渡が企んでいる気がします。現にさくらは友人達から知らない人だと素っ気なくされる夢を見たり、秋穂が桃矢をさも自分の「お兄様」と親しげに呼ぶ事を考えると合点がいきます。が、現在もこの疑問を解消してくれる人は誰一人としておらず、物語も問題発生と原因不明のくり返しで、スパイラルのカードを使いましたか?と聞きたくなる有様。
    今後も更新を待ち続けますが、恋愛面でもバトル面でも淡い期待はかなぐり捨てて、ふんわり読んでいこうと思います。
  • まとめ★グロッキーヘブン 分冊版

    みたおでん

    男性向けエロが今、男性を襲う!
    2021年4月13日
    少子化で生徒数が減少し、女学園と男子校が合併した事からラッキースケベを発動しだした海原まとめは、異性にとんでもないエロアクシデントを引き寄せまくる。そんな彼女に唯一、鉄拳制裁を加える暴力ヒロインの血を引いた武闘家のイトコ・集とひょんな事から同居生活を始め、二人の周りに様々な属性達が集まり、ドタバタ波乱の学園斬新ラブコメ。
    今まで考えられそうで描かれてこなかった男女逆転版、少女漫画のお約束的展開とキャラクターが丸ごとギュッと詰め込まれた本作。まさか立場が入れ替わるだけでこんなに面白いとは!他にも、色気ダダ漏れな誘惑オープンエロヒロインや金髪高飛車お嬢様、地味系ガリ勉眼鏡っ娘、SM気質、動物好きの天然癒し系、年上褐色肌ヒロインなど属性の宝庫!またお決まりの展開に「分かる!」「よく見るやつ!」だと深く頷けるのもまた堪らん快感で、ド定番にも関わらず、腰から砕け落ちそうな笑撃も。描かれるエロも官能的というより、破廉恥で滑稽。近年、鬱な後味やシリアスで重ための作風が流行りがちですが、本作は真逆。可愛らしい絵柄で描かれた登場人物は皆、悪意なく、ポジティブで前向き。終始これでもかといわんばかりに高度なギャグとセンスの塊みたいな言い回し、軽快なテンポで次から次へと躊躇いなくページをめくらせてくれます!豪快に吹き出して笑った後も、ジワジワと寄せては返す笑いの波に、明るい気持ちになれるのが最高です。そう、難しいことは何も考えず、気軽に読めちゃう上に極楽な気分を味わえるなんて、まさに手ぶらで五ツ星の高級ホテルに泊まれちゃうようなラクジュアリー感。
    最初は、イトコといえど、かかされた恥 破られた服 数知れずでエロをぶちかましてくる痴 女(まとめ)を「鬼門だ厄災だ」と悪態ついて遠ざける集でしたが、次第に心開き、恋心をも抱いていく姿は何とも可愛く、そしてチョロい、でもやっぱり可愛いのミルフィーユ状態。個人的には真打ちライバルとして登場以降、まとめ、集と三角関係にあるルカの天然なのか、あざといのか分からない不思議な魅力がドツボ。まとめちゃん、あらゆる意味で罪深い女...。そんな三人の恋の行方を含めた、属性達の運命から今後も目が離せません。
  • NANA―ナナ―

    矢沢あい

    3人目のNANAがいたら共感できたかも
    2021年4月12日
    「天使なんかじゃない」「ご近所物語」「Paradise Kiss」など類い稀なる才能で読者の瞳を輝かせ続けた少女漫画界の大御所・矢沢あい先生の代表作の1つ。本作でも光が射し込む透明感溢れる描写は非の打ち所がないほどに美しく、スタイリッシュな人物像や映画の様なドラマティックな構成に何度読んでも心踊らされます!ただ、物語としての完成度や軽快さは前作より低く感じられ、どちらのNANAにも感情移入が難しいというのが率直な感想。特にハチこと奈々の中毒的な恋愛依存性、言動もいちいち男性によってコロコロ変わったり、被害者意識が強く思い込みが激しかったりと次第に苛立ちが募る一方。もう一人のナナもサバサバした性格かと思いきや、ヤンデレで重暗く、実はいちばん女々しいのがツラい。初読だった10代の時は同じ地方出身で上京する身だったこともあり、都会での新生活や華々しい業界、お洒落な人達への憧れが重なってありましたが、今読むと物語自体が薄っぺらく感じ、理解も共感もし難い少女漫画的展開と発想だなぁとしか思えません。要するに芸能界という小さな世界の、トラネスとブラストという更に狭い狭いコミュニティの間で急速にくっついたり離れたりする少年少女達の物語で、中盤から昼ドラ的なドロドロ感満載。相関図も非常に複雑になり、過去編未来編と頭もちんぷんかんぷん。また長い番外編でしかキャラクターの背景を深く掘り下げられないというのもどうなんでしょう。全話の冒頭と最後には必ず二人のNANAによる意味深なポエムが入り、最初はハラハラドキドキしながら考察しましたが、こうも長く伏線回収されないままワンパターンでクドく繰り返されると、もうどうなってもいいやと興醒めせざるを得ません。今は先生が病気で療養中のため長期休載されてますが、果たしてキチンと完結されるかが疑問。1日も早い回復と復活を期待します。胸を張って不朽の名作です!とは言いづらく、青春時代の一冊として紹介させてください。
  • ライチ☆光クラブ

    古屋兎丸

    聖なるものは愛し、性なるものは抹殺する
    ネタバレ
    2021年4月10日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 刊行直後から話題沸騰となり、度々重版され、近年映画化や舞台化もされた古屋兎丸先生の最高傑作の1つとしても名高い本作。先生が高校生の時に観劇した東京グランドギニョル演劇が元であり、漫画の構成も実に舞台的。他のレビュアーさんが仰るように好き嫌いがはっきり別れる作品で、厨二病を極めた少年達の自己陶酔っぷりは読んでいて恥ずかしくなるほどイタイ。特にゼラが頭悪すぎて、物語自体が薄っぺらく感じ、ぜんぶ自業自得じゃん!で終われちゃう始末。BL要素を含めたアングラやエログロ、耽美的な雰囲気を楽しむ分には良いかも? 7人の少年達がそれぞれ非業な死を遂げていく姿は、絵本作家エドワード・ゴーリーのギャシュリークラムのちびっ子たちを彷彿させます。作中ゼラが人間は必ず裏切る生き物なんだと言いますが、人は自分の中にある言葉しか出てきません。例えば、浮気を疑う恋人は自分が浮気しているから相手もそうなんじゃないかと思うわけです。つまり、最初から裏切っていたのはゼラ自身で、汚れた大人になるのを忌み嫌いながらジャイボと性的関係を結び、他の仲間達を監視するという支離滅裂具合。穢れなき美少女に異常な執着と夢想を抱くのもその為でしょう。でも実は物語の中で一番の夢想家はカノンなんですよね。発想や思考が乙女かつ機械と恋に落ち、人間の残虐な一面を認められない。ここに少女特有の夢見がちな浅はかさが顕れています。要するに少年の理想と少女の幻想の対決といったところでしょうか。また、ゼラに忠誠を誓う仲間達もゼラ本人も皆なにかの奴隷です。ゼラは夢想に、雷蔵は美に、ジャイボは愛に、デンタクは科学に、タミヤは正義に、カネダは闇鬱に、ヤコブは道化に、ダフは黒魔術に、ニコは主従関係に酔いしれながら、機械の方が人間化し、造った人間の方が機械化していくという皮肉。そう考えれば、「受け入れれば射 精、断れば射殺」といわんばかりの歪んだ愛に翻弄されるジャイボが最も人間らしかった気がします。だからこそ、対極にいるカノンが妬ましくてたまらなかったのでしょう。聖なるものは愛し、性なるものは抹殺する思春期ならではの青さは純度が高いゆえに残酷で行き場がない。ある意味で、各々の処刑はその青さや理想との決別、卒業式ともいえるのではないでしょうか。
  • 笑う吸血鬼

    丸尾末広

    月と蝙蝠が見る、鮮血春色の世界
    ネタバレ
    2021年4月10日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 耿之助は偶然出会った百三十歳の駱駝女に見初められ、不本意にも吸血鬼に加えられると、人間性を失う代わりに頭の中に咲き乱れる快楽と恍惚感にのめり込んで血を求め、夜毎徘徊し出す。そんな彼の同級生・性に激しい嫌悪感を抱く留奈と放火や残虐な夢想でしか満たされない外男など、たとえ吸血鬼という拠り所があっても、生が乾いて仕方のない生き物達を描いた大作。吸血鬼モノが多くある中、日本独自の倒錯感と五感で狂っていく耽美的なグロテスクさは国内外問わず熱狂的なファンを持つ丸尾先生にしか成し得ない世界観で唯一無二。現代とは思えないほど戦後色が強いのも先生らしい。ゆえにジャニーズ系と言われましても。また14才という設定はエヴァやポーの一族でもお馴染み、神秘的に絶妙な年頃で、大人と子供の狭間は現実と夢想の境目とも言えます。ちなみに本作の吸血鬼にニンニクや十字架は無効で日光のみが命取り、瞬間移動めいた動きや壁を這うなど身体能力は人間以上。意外だったのは牙がなく、吸血する際は刃物を用いるところ。全編、血と精の液にまみれてるものの、エログロだけで片付けたくない美しさがあります。人間じゃなくなる快感。他の生物にもなりきれない虚無感。紙面から伝わる肌の凍てついた感じがゾクッとします。特に月と蝙蝠にちなんだ名前の留奈と耿之助の妖艶さは異常。何かと留奈、留奈と気にかける耿之助が可愛い。確かに初めから彼だけが下の名で呼び、瀕死の彼女を見殺しにせず、血を分け与えた後も度々ちゅっちゅしちゃうので、前から愛し求めてたと見受けられます。そりゃピエロも惨殺されるわ。そのせいなのか、作中で幾度も描かれたセッ久より二人のくちづけの方がひどく官能的。真っ赤な血の糸で繋がる二人を終始、万華鏡を覗く様に月の穴から垣間見ていたい。そうです、あれは衛星ではありません。読者の覗き穴です。序盤で二人が被ってた覆面の様に内側と外側どちらが外の世界なのか、どちらが異端者か。彼らからすれば周囲の人間達の方がよっぽど異質な化物に見えた事でしょう。人間はどこまでも理不尽で残酷、醜くて狂気的。それでも生きていかなきゃいけない理由が分かる様で分からない。個人的に続編ハライソは蛇足。新キャラ達の魅力が乏しい事、不死だけど不老じゃないのも腑に落ちない事、そして何より耿之助の髪型が変すぎる。外男風に言えば、なんという幻滅!下巻は星4つ、上巻は星5つです。
  • あずみ

    小山ゆう

    日本美の凝縮
    ネタバレ
    2021年4月7日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 14年にも及ぶ長期連載で、第1回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞と第43回小学館漫画賞青年一般部門を受賞し、今日まで映画化や舞台化と華々しい経歴を持つ本作。物語は戦国時代末〜江戸時代初期、人里離れた山奥で小幡月斎に刺客として育てられた10人の少年少女達が天海の命を受け、再び乱世に戻そうとする者達を枝打ちしていきながら己の役割や存在に苦悩し、紅一点で桁違いの実力と美貌を兼ね備えたあずみの業の深い生き様を描いています。まず1巻につき、何人死ぬのだろう...と気が遠くなるほど壮絶なシーンの連続なのでグロ注意。途中で諦めたくなるトラウマ展開もあり、特にきくと千代蔵の死別、好青年だった俊次郎の成れの果てを含めた雪国編はこたえました。とはいえ、歴史上の人物との絡みやあずみの無双っぷりは爽快で、敵味方問わず個性的なキャラ達が登場しては、ばったばた死んでいくワンパターン気味な展開も何故か面白く一度読むと止められない中毒性があります。映画的な構図やほぼ全て手描きという芸術的な作画も見所のひとつ。santa fe時代の宮沢りえがモデルとなったあずみは時折、美人画を彷彿させる神秘さを放つのに、中身は永遠の少年なのがたまらんギャップで可愛い。四季折々の叙情的な風景も圧巻で、改めて日本の良さをひしひしと感じさせられます。読む度に温泉行きたくなるのと、おにぎり/味噌/焼き魚が無性に食べたくなるのも必至。洗脳教育を受けた子供達の無邪気さとむごさ、純粋培養の恐ろしさを知った衝撃の始まりから、殺戮マシーンだったあずみが次第に一人の人間に成長していく姿は実に感慨深い。が、最強であるが故にいつも愛する仲間達の死を見届けなくてはならず、たった一人置いて行かれる孤独さは想像を絶します。夫婦になろうと言い寄るお殿様もイケメン達もみんな振り切り、自分に合った仕事に邁進していく姿が切ない...。ちなみに仲間達は皆、あずみの胸に抱かれる形で看取られてますよね。宮本武蔵が胸を「大きな誇り」と表した様に仲間達の死が彼女の胸に「誇り」を最期の息として吹き込んだからこそ終盤、生まれた村よりも「帰るとするか」と使命を選んだのも納得です。彼女の家とは地理的な場所でなく爺と仲間達のいた村で、彼らは今もあずみの胸に生きています。つまり使命を全うする事が誇りであり、家でもあるのだと。そんな帰路で幕が下りたのはある意味ハッピーエンドではないでしょうか。
  • 進撃の巨人

    諫山創

    そして神様の蓋を開ければ、サウナが広がる
    ネタバレ
    2021年1月19日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 「進撃の巨人は絵がヤバい」と聞いて興味本位で手に取り、全てを読み終えた時、ああこれは本当にヤバいものを見てしまった...と頭を抱えました。民族紛争や人種差別、洗脳教育など現実問題が凝縮し、人間という生物とその歴史を漫画の域を超えて届けられた芸術品に手塚治虫以来の衝撃と感動で心が震えました。物語は最初ダークファンタジーとして始まり、半沢直樹的展開から猿の惑星、そして戦争へと移っていくのですが、美しすぎる流れのせいでどんでん返しに直撃。見落としがちな描写や何て事ない台詞にも実は巧妙な伏線が張り巡らされ、回収時には見事してやられた...と笑ってしまうほど。物質的な壁を壊された日から、人間の心に巣作る悪しき概念の壁を壊していくさまが一貫して描かれており、自分のした事は自分や次世代に跳ね返る、いわば鏡の世界で一人の選択が誰かや何かを変えてしまう恐ろしさ、自由の為にした事が却って不自由を呼ぶ矛盾、それぞれの視点から見た真実と多くの対比も圧巻で素晴らしい。また人物の色彩設定は派手でないにも関わらず、一人一人の内面が魅力的で個性輝き、完璧な構成と心理描写から全員にもれなく感情移入できますが、次頁で突然死ぬキャラも多く、嘘だろ...と愕然。でも現実も同じですよね。今日元気でいた人が明日もいる保証はどこにもない。不条理だろうと本人の意思とは別に役割と使命を果たした者から退場していく...残酷で美しい世界。考察はハンジの巨人話並みに朝まで滾るので割愛しますが、狂人変人超人トリオのエルヴィン、ハンジ、リヴァイの活躍が印象的でした。特にリヴァイは三次元の全男性の頸をも削ぐ勢いで二馬身以上離れられません。紙面史上最高傑作のキャラでしょう。欲を言えばアニメでも彼の造形美を忠実に描いてほしかったなと。確かにアニメは動きがより分かり易いですが、個人的には線の一つ一つが生きていて、諌山先生のアナログに対するこだわりが見える漫画版を激推しします。アクション、サスペンス、人間心理、凡てにおいて非の打ち所がない神業で、どれだけ考察しても最高の形で裏切られる予測不可能な展開、そして神様が地球の蓋と人間の頭をパカッと開けて俯瞰した世界観に脱帽せざるを得ない本作には星5つどころか銀河中の星を贈りたい。同時代に生まれ、出会えた必然に感謝します。本当、進撃のせいでツライと面白いに引き裂かれて、おじさんは今、大変なんだから。
  • 望外ヘビーラブ【マイクロ】

    島袋ユミ

    内面ウサギなヤンデレ男子の真骨頂
    ネタバレ
    2021年1月16日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 高身長に頭脳明晰、顔面偏差値も高いモテ男なのにヤンデレな彼氏・莉音に溺愛される主人公・千冬。こんな風に愛されたいし捕食されたい!と羨む女性は私だけではないはず。特に莉音は個人的にこれまで数多く読んできた少女漫画の中でも、1、2を争うほど大好きなキャラになりました。一見、クールで他人に興味関心なさそうな近寄りがたい雰囲気なのに、部屋の壁は彼女の盗撮写真、棚にも盗撮アルバム集がギッシリ、貸したマフラーはジップロックに入れて勝手にコレクション化、本人を前にすればキスとハグの嵐、終いには「だいすき♡」と色気ダダ漏れでデレる始末。嫉妬深く独占欲が強い上に息を吸う様に盗聴盗撮するストーカー。現実にいたら「お巡りさん、ここです!」ですが、漫画としてなら最高の好物で悶絶。大満足です。島袋先生の作品は本作が初読ですが、どこか80年代を彷彿させる可愛らしい絵柄に見事クリーンヒット。そんなタッチもあってか、度を超えた変質者感や一方的な独りよがり感はこの莉音になく、ちゃんと千冬と千冬の家族を尊重している姿勢がむしろあざと可愛くて好感を持てました。作中「俺は寂しいんだけど!」「全部、俺と一緒に?」の台詞からも分かる様に極度の寂しがり屋で承認欲求が強く、身も心もどっぷり愛し愛されたい願望に終始、母性本能をくすぶられ、二つ結びがトレードマークな千冬以上にウサギ感炸裂。まあ、素直で染まり易い女の子って、こういう変態に捕食されがちですよね。いいぞ、もっとやれ。そんな黒い満足感に応えてくれる様に、ちょっぴりエッチな展開がテンポ良く描かれてゆきます。彼女の愛を独占する為なら、酔っ払った演技も朝飯前、元カノを使って嫉妬させ、自分の指までわざと切って振り向かせちゃう。その分、自分達を脅かす存在には手加減ナシ。シスコン兄にキス現場を目撃させ、痴漢はフルボッコ、執拗な元カノも家族もろとも左遷(転校)させ、千冬を愛するあまり他の女子を代用品にしてきた保健医もSNSで公開処刑。そうして一悶着あった後の極めつけが「ね、俺がいちばんでしょ?」これです。ヤンデレ男子の本心って、まさしくこの言葉なんだと思います。また、千冬側の家族は描かれたものの、莉音側は全く描かれなかった所も、彼の心の闇的な寂しい翳りを際立たせてて良かったです。悲しいかな、完結されましたが、もっと連載化されてほしかった...。まだまだ続編が、重い愛が足りない!
  • 犬夜叉

    高橋留美子

    時も距離も二人に勝てなかった、本物の愛
    ネタバレ
    2020年10月4日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 高橋留美子といえば「うる星やつら」「めぞん一刻」「らんま1/2」など不朽の名作で常に感動を与え続けてきた漫画界の巨匠。こちらの「犬夜叉」は丁度世代でアニメもリアタイで観ていました。耽美でグロテスクな戦国の描写はそこはかとなく不気味で中毒性があり、テンポ良い展開で次から次へと読ませてくれます。また人物設定も実に考え抜かれており、どのエピソードも印象深く、恋愛模様も月9以上の華やかさ。男女のゆれ動く恋心はお手の物で、全ての片想いやカップル達の様子に終始ときめかせてくれます!特に犬夜叉とかごめは萌えの宝庫。
    元々この物語はかごめの弱い心が根源で始まり、彼女の魂の旅を描いています。四魂の玉を狙う奈落を倒せば万事解決...ではなく、玉にすがる人間の弱さこそが最大の悪だという所が鍵。桔梗だった時代に、仲間もおらず、たった一人で妖怪達を倒し続け、愛にも恵まれず、生まれ変わっても尚、犬夜叉に会いたいという魂の叫びが四魂の玉によって叶えられ、その願いは分裂し、飛び散った事によって新たな戦いを引き寄せ、頼もしい仲間達を得て、過去の自分とも対峙し、成長していく。現に蘇ってからの桔梗はかごめの分身に過ぎず、いわば人間の二面性・光と影として対照的に描かれており、犬夜叉と再会して愛し始めた事により、生まれた嫉妬や汚い感情は桔梗で、優しさや母性といった綺麗な感情はかごめ本人という、二人で一つの魂が犬夜叉ただ一人をひたむきに想う姿は感動的。究極の愛だと思います。そして旅の終わり、ようやく二人は結ばれ、止まったままだった魂が戦国と現代を経て、愛する人と歩みたかった明日へ今度こそ玉を頼ることなく歩み始める...。時間軸で言えば、かごめの住む現代の続きが未来のように思えますが、彼女の魂の未来は犬夜叉と歩む戦国時代のその先にあったからこそ、「嫁に行った」という表現にも頷けます。そんなかごめを中心に多くの登場人物を通して、人間という儚くも強い生き物を見事に描き切った大作。また、この最終巻の表紙が物語っているように、お互いを見つめ合うのではなく、同じ方向を見つめて共に進み続ける愛を手に入れた二人の姿は、いつまでも尊い物語として語り継がれることでしょう。
  • 隣の席の変な先輩

    うすくち

    我に返って表紙がいちばん怖い
    ネタバレ
    2020年10月2日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 社内一、イケメンが生息する部署に異動された主人公まゆみが隣の席の先輩・朝日向の粘着質で陰湿な偏愛のアプローチに翻弄されていく話。
    ふと我に返ると、変態容疑で現行犯逮捕できるほど不気味な先輩ですが、この作画の美しさで描かれた美男な容姿もあってか、読み進めるにつれて主人公と同じく、欲望に忠実で心の声はダダ漏れ、素直な身体の反応のままにすぐ暴走してしまう姿さえ、可愛いかも...と謎の母性本能をくすぐられて許してしまいがちに。時折、見せる子犬のようなあどけなさと「初めて」攻撃が何とも罪深い。
    物語は、全体的にギャグ要素が強く、特にボケとツッコミの的確さは快感で、ラッキースケベの数々はひどく官能的。明るく皆から愛される天然記念物イケメンが実は変態だった、というよりも、根暗で雰囲気から言動まで陰湿な隠れイケメンが実は猟奇的な度を超えた変態ストーカーかつ巨大松茸の保有者だった、という方がより一層危険で甘く卑猥な香りがするのは否めません。とはいえ、残業中に自分をオカズに堂々慰め、満員電車では胸を揉みしだき、ほくろの数を把握する為に下着を没収し秘部を直接観察、自宅の部屋の壁一面には盗撮写真がビッシリ貼られ、善意の看病には裸でお応えし、同意なく容赦ないキスの嵐に直接こすり合い...凄まじい変態の域です。ある意味、あまりの自分本位で執拗な愛情表現と、巧みな妄想力から相思相愛だと思い込む勘違いに、こいつ実はポジティブでは?と首を傾げたくなるほど。そんな危険すぎる雄に捕食されゆく、まゆみ。5話時点ではまだ朝日向の一方通行ですが、なんだかんだで満更でもなく受け入れてる姿から、新キャラ含め、本当の意味で二人が結ばれるであろう今後の展開に期待大です。途中で我に返って現実的に考えないよう、今後もこの変態祭りから目が離せません。
    *追記。念願の6巻をワクワク拝読させてもらったのですが、明らかに絵が雑になり、展開もテンポも驚くほど急激に何これ状態に劣化...まゆみは絶賛流されまくりで、話が全然進まない。あんなに子犬ぽかった朝日向先輩からも可愛さが消え、生理的に無理な犯罪者への嫌悪感だけが残りました。女性を敵に回された感が否めない...。まだまだ見守り隊ですが、更新があまりにも遅く、続けての購読は厳しい様に思えたので、星をひとつ減点したいと思います...残念。
  • きみはぺット

    小川彌生

    女性の夢やあこがれ全てを手にするまでの話
    ネタバレ
    2020年9月29日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 才色兼備のバリキャリだが壊滅的な男運の主人公スミレが、捨て犬のようにゴミ箱に転がっていた美少年を拾い、亡き愛犬と同じ「モモ」と名付け、ペットとして彼と一緒に暮らしていく物語。国内外問わず幾度とドラマ化された本作を今更ながら試しに読んでみたら、予想以上に面白くて結局、全巻読了してしまいました。
    ペットと飼い主という関係性に男女間ではないから無駄に傷付かない、お互いのバランスを保つ為に絶妙な距離感が実に良い。こういう存在に自分を含め、現代を生きる女性達から強い共感を得たのには深く頷けます。また、人生の荒波や辛い経験を積んできた人に突き刺さる名言の数々も見所のひとつ。作者の小川先生は実際に記者だった事もあり、新聞社の空気感や実情も現実的で、漫画の構成や展開が非常によく考え抜かれており、どのエピソードも印象深いです。また登場人物も皆、魅力的に思えるほど、深層心理的な部分まで丁寧に描かれていて、特にモモの人間像には個人的に好感が持てました。というのも、最愛の女性との共同生活に、ペットという境界線を超えるべきか迷いながら献身的にずっとスミレを支え、永遠に続く事のないシェルターを未来に残そう、そうして二人でいつまでも共に生きようと、飽くことのない愛を証明する為に、1人の人間として男として自立し成長していく姿は、あまりにも美しく、ひたむきで。ここまで愛されたら女性冥利に尽きるんじゃないかと羨ましくなっちゃうほど、その愛情の深さに心打たれました。
    最初はデレのないツンばかりの取っつきにくいスミレも、モモと自然体で暮らしていくうちにどんどん本来の素の部分が引き出され、人間味を帯びていく過程も見ていて面白おかしく楽しく。何度も、もうだめかもしれない...とくじけそうになりながら、それでも待ち受ける試練やトラウマと闘い、乗り越えた最後には、仕事、親友、元彼との美しい思い出、両家族、愛するひと、そして彼との可愛い赤ちゃん...女性の夢やあこがれ全てをようやく手にしたスミレに、迷わず、拍手喝采を送りたいです。
    読み終えた後、私もいつか出会う「あなたにふさわしい人になるために、今日も頑張ろう」。そんな幸せなきもちにさせてくれる傑作です。
  • 綿の国星

    大島弓子

    どこまでも美しく、やさしい、猫の世界
    ネタバレ
    2020年9月29日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 繊細な描写と詩的な言葉回しに、どこか懐かしさを感じると同時に胸を締めつける切なさと愛おしさが込み上げてきます。いつか人間になれると信じている子猫が時夫という青年に拾われて、彼に恋心を抱きながら、猫目線で他の人間達と交流していく過程が実に素晴らしい。
    愛してくれたラファエルや発情期ネコ、去勢された雌ネコ、ペルシャを共に目指したネコ...どのエピソードも幻想的で印象深いです。また、猫たちの中で独自のルールがあり、猫好きの自分としては、きっと猫って日常こんな風に思ってるのかな?と微笑ましく思えました。
    個人的にチビ猫ちゃんの可愛いエプロン姿から、想像上で大人になった時の美しく気高い姿にギャップ萌えでした。
    この頃の少女漫画は現代のと異なって、とても詩的で文学的だったんですね。読んでいる間中ずっと夢のなかで遊んでいるようでした。ある時は、ふりそそぐ満天の星空から、はしゃぐ太陽の光の中を泳いでいる感覚。またある時は、美しい音楽の合間を心地よく流れていく感覚。おとぎの国の世界にいるような。そう、大島弓子先生の作品はいつも切なさや、悲しさ、きらきらしたオモチャ箱を開けるような気持ちにさせてくれます。ふっと一人、窓辺で思いに馳せたい時に、思い出をめくるように開いて読みたい、大切な漫画です。
  • 封神演義外伝~仙界導書~

    藤崎竜

    夢の国をさがす君の名を誰もが心に刻むまで
    ネタバレ
    2020年9月29日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 紀元前11世紀の中国を牛耳る権力者達との闘争に始まり、そこから当初の目的を何度となく書き換えながらも、仲間を得て時に失う経験を経て成長し、裏で世界を操っていた創造主を倒し、本当の自由を手に入れた主人公達のその後。
    18年前に見事な物語の収束で完結した封神演義の新作と聞いて、大好きな作品だったゆえに懐かしさ半分、不安半分で読み始めましたが、すぐに立ち上がって拍手喝采を送りたいほど素晴らしい続編でした。空気感も連載当時そのままで、絵柄もほとんど変わらず、ここだけ時間が止まっているかのよう。
    未来過去へ自由に行き来する新キャラ妖怪・地鶏精こそが藤崎竜先生で、私達読者は太公望と四不象となり、過去に飛ばされた感覚。そうして再会を果たせた懐かしい顔ぶれに、ただただ感激の嵐。また、もう一人の新キャラ・神農は今時っぽい外見と宝貝で新しさを感じつつも、ちゃんと従来の世界観に馴染んでいて、好感が持てました。
    さすがにこれで最後か...と今度こそ旅の終わりに切なさがよぎったのも束の間、まだまだ太公望たちの冒険はこの先も続く形で幕を閉じて、嬉しかったです。
    神農が言ったように、私にとっても太公望は、いえ、封神演義は、希望そのもの。再アニメ化がなければ生まれなかった外伝。アニメスタッフの方達に感謝のきもちでいっぱいです。
  • 天使な小生意気

    西森博之

    絶対的な愛
    ネタバレ
    2020年9月27日
    このレビューはネタバレを含みます▼ これまで沢山のラブコメを読んできましたが、中でもこの、情熱的で可愛さもあるギャップ萌えな男の中の男・源造と、美しく気高く強い女の中の女・恵の、ひたむきで純粋な物語は屈指だといえる名作。
    特に萌えでもエロでもないのに恵の神秘的な魅力は凄い。読み進める度に、綺麗で可愛くてしなやかで...本当に女の中の女に見えてくる。狙った絵柄でもないのにここまで登場人物に雰囲気が出せる上に、ギャグも秀逸で、胸を打つ名言の数々に感動的なシーン、全体的にあっさり描かれてる割に緻密な伏線と回収も、さすが西森先生!
    序盤では、実はめぐ団の全員が魔本関係なく自分で自分に呪いをかけており、強い男や伝説の悪魔、普通、変態、武士にならなければならない自分...。そんな他人や自分が認識する自分像に押し殺していた所を、恵と再会し告白したのを機に呪いが解けた源造に続き、他の人達も段々と解放され、最後は恵も...というお話。読み進めていくと、冒頭から恵の本当の目標は魔本でなく源造で、霊能力者も「探し"もの"は学校にある」、小悪魔も「"元"に戻る」という言い方が鍵。更に無理難題な願いは聞き入れない小悪魔が、序盤で源造に"恵が自分に惚れるよう"願われた時、あっさり引き受けてた演出もニクイ。中盤、勝手にキスで戻ると思い込むほど元々の発想や言動が乙女な恵は、初めて守ってくれた源造を今度は自分が助けたい思いと、本来の女らしく生きたい憧れから「女の中の女になりたい」と願ったわけだけど、男だと思い込む事によって、この両方は叶ったのだと。小悪魔の粋な計らいですよね。そうして最後やっと命がけで源造を護り抜くことができ、出会った時から絶対的な愛をもつ彼に、自分も男らしく好きだと応えることで、恵の呪いが解ける所は感動的!直後まるまる1Pに描かれたキスシーンは少年誌に残る名場面だと思います。
    総じて、めぐ団全員に共通する「誰かの為に諦めない勇気を持つ」所から、大切な人を守る本当の強さをもつのに男も女も関係ない、自分がどんな人物に見えるかも関係ない。大事なのは、その一歩の勇気をもつことだと作者は一貫して伝えたかったのでしょう。証拠に、この題名。天使は性別がない、中性的な象徴。男女関係なく憎めない愛おしさを表現したこの題名を作中でそのまま使った人が、ただ1人います。天使な小生意気。今読むと、源造の絶対的な愛がたっぷり込められているように感じませんか?
  • D.Gray-man

    星野桂

    落胆と失望
    ネタバレ
    2020年9月20日
    このレビューはネタバレを含みます▼ デビュー作でありながら、作画作風の変わりようが激しく、大量のパクリ疑惑が浮上し、休載が多い事でも有名なこちらの作品。何故こうなったのか...読み進めるにつれて落胆と失望で強烈に顔をしかめたくなったのは私だけじゃないと思います。とはいえ、初期は、これまであったようでなかったダークな中世ヨーロッパを醸し出す世界観に加え、独創的かつ繊細で美しい作画技術に、これがデビュー作で週刊連載とは信じられないほど、完成度がとにかく高いです。当時のジャンプにゴシックでファンタジー要素が強いのは珍しく、エクソシストという設定も斬新で、極めて異例。人形編や吸血鬼編などイノセンス集めの話はどれも構成がまとまっていて、感動的なシーンにおもわず涙した事も。しかし、たちまち魅了され、のめり込む様に続きを読んだ末路が悲惨でした。7巻辺りから絵柄が変わり、物語が詰まり、以降フルスピードで劣化していきます。
    着実に画力が上がった結果としての変化ならまだしも、頻繁に作者の好みで絵柄が変わり、最早その人物かどうか判断するのも困難なほどの激変。例えば、リナリーの髪を極端に短くする必要性はどこにあったのか。メインキャラの特徴を変貌させるなんてご法度、というよりナンセンスすぎます。更に全体の作風さえもガラリと変えるスタンスはプロとして有り得ません。物語自体の展開とテンポも悪く、登場人物の設定はボロボロ、特に能力がアンバランスで無理ゲーすぎて、その上ギャグも面白くない、いかにもウケを狙った描写も滑りまくる、未回収の伏線も描く気配すらないのに死ぬ必要のない仲間達が乱雑に強制退場させられ、魅力の乏しい新キャラがこれでもかといわんばかりに続々と登場...D.Gray-manという作品であり続けようとする姿勢が微塵も感じられません。最近は画集と化しており、物語も読者を置いてけぼりにしがちで、結局この作品を通して作者は何を伝えたいのか、何がやりたいのか、私には理解不能です...。どの様に完結させるか、長期連載されている他の漫画も多数ありますが、この作品に関しては、どう終わろうとどうでもいい、もう勝手にしてください、という感じ。漫画はあくまでも商業用の芸術です。自分の好みを押し付けたいのであれば、いっその事、同人誌でご活躍されればと切に願います。ここまで落ちぶれてしまうとは、後にも先にもこんなに期待してガッカリした作品と作者はこの漫画だけです。
  • 月の子 MOON CHILD

    清水玲子

    幻想的な恋愛SFと見せかけての
    ネタバレ
    2020年9月20日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 童話「人魚姫」をモチーフにしつつ、80年代の国際的問題を取り上げ、少女漫画の枠を超えた、こちらの作品。繊細な絵と幻想的な世界観にうっとり魅了させられ、一人のダンサーと別の惑星から来た人魚の恋愛SFかと読み進めていけば、世界をも揺るがす壮絶な展開に、物語の広がりと収束が凄かったです。出版された80年代後半に、後のセカイ系ともいえる内容を描いていたのも実に興味深いもの。
    また、無事ハッピーエンドと思わせておいての衝撃なラストは、果たしてどちらがベンジャミン達に起こった事なのだろう?と思いがちですが、物語的には、地球が見えていたという事はあくまでもパラレルかもしれないと示唆させたところで終わらせたかったのかな、と。ただ、私達が生きる現実世界では実際に爆発は起きましたよね。福島原発がそうです。「怖い夢」としてベンジャミンが見たのが私達の現実であり、私達が望む「甘い夢」はベンジャミンにとっての現実なのです。萩尾先生の解説が全て物語るように、ここらへんの仕組みが絶妙なんですよね...。この物語の中では、人魚姫の童話は「虚構」で、月の子の世界は「現実」。ベンジャミンが見る「夢」と起きてから展開する「現(うつつ)」。つまり、恋愛模様を織り交ぜながら一貫して取り扱ってるテーマは虚構と現実と言えるでしょう。しかもこの漫画という虚構と、読者達の住む現実さえも巧みに利用した作者の企みに見事にしてやられました...。清水先生、これは本当に漫画ですか? それとも聖書ですか? そう投げかけたくなるほどの完成度の高さに頭が上がりません。
    また恋愛漫画として見ても、こころに響く名言が多くて、思わず拳を握りしめてしまうほど、ときめきました。特に個人的にはショナに惚れ惚れしっぱなしで、何度ベンジャミンと代わりたかったことか。せっかくショナと強い縁で巡り会えたにも関わらず、またも別の人間に恋に落ちていく姿は見ていて苛立ちさえ募るほど。でも、仕方ないのです。人魚姫という童話の虚構に彼らの現実が左右されたように、私達の現実もこの月の子という虚構が切に訴えかけた社会問題の注意喚起を受け止めて、より良い方向へ左右されていきたいものです。
  • HEN

    奥浩哉

    やっぱり、変。
    ネタバレ
    2020年9月20日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 自分はこれまで異性が恋愛対象だと思っていた主人公・吉田ちずるは、転入生の山田あずみと出会い、初めて恋という感情を知り、戸惑いながらも揺さぶられる激情の数々に振り回され、周囲をも振り回していく、同性愛者をテーマにした学園ラブコメ。
    奥浩哉先生といえば「GANTZ」や「いぬやしき」などSFサイコもので有名ですが、個人的にはこちらの「HEN」のようなラブコメ作品が好きです。しかし流石、奥浩哉先生、緻密で綺麗な描き込みと独特な世界観に台詞回し、そこはかとない気味の悪さは圧巻です。20数年前の作品にも関わらず、今見ても一切の古さは感じさせないどころか、むしろ新しさを覚えるほど。
    特に主人公のちずるは顔もスタイルも見事なまでの美少女で、運動神経も抜群で成績優秀と天才的なわけですが、もうとにかく美しくて可愛い。それだけで見る価値があると断言できます。描写的なことをいえば、おおきな胸が左右非対称に揺れ動く様は革命的。当時、多くの読者や漫画家が震撼し衝撃を受けたのにも頷けます。
    序盤、愛していると好意を寄せる男達に「ドラマの見過ぎなんじゃないの」と冷たく一蹴するほど淡白超えて冷徹ともいえるちずるが、同性のあずみにどっぷり惚れ込み、首ったけになっていく姿は見ていて滑稽で、初恋を前に小学生男子のようにしか振る舞えない、あまりの不器用さに愛おしくなって微笑ましいくらいです。そんなちずるとは対照的に、常に冷静で塩対応なあずみとの温度差が激しく、空回りっぱなし、振り回されっぱなしのちずるの姿が余計に、なんだこの可愛い生物達は...と萌えっぱなしでした。
    90年代の芸能界事情を織り交ぜながら、同性間の恋愛問題が発展していく中盤、別作品である「変」の登場人物・佐藤と鈴木も参戦し、そちらを読んでいる方達には胸熱な展開になっていきます。そして、それぞれの落ち着く幸せに終わる...かと思えば、最後の最後で、まさかのどんでん返し。呆気に取られたまま、こうして読み終わった後にしみじみ思うのです。ああ、変だったなぁ、って。
  • ポーの一族 ユニコーン

    萩尾望都

    失われた世界の果てに
    ネタバレ
    2020年9月20日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 私は人生で最も大切な漫画に「ポーの一族」を挙げますが、作者の萩尾望都先生が描いたからといっても過去の名作に泥を塗る事だって出来ます。そして今回の「ユニコーン」「春の夢」ら続編は悲しいかな、そう感じました。
    まず率直に物語と展開、登場人物が面白くない。読み進めるにつれて同一人物が描いたとは思えないほど、ただただツライ。これを「ポーの一族」として出版され、読者に認識してほしくないほどに全くの別物です。70年代の方を"幻想的かつ叙情的な世界観に読者が誘われていた"とすれば、続編は逆に"エドガー達が私達俗世間や現実社会に落ちてきた"と言う表現が正しいかもしれません。現にエドガーはこれまで感情を表に出さないポーカーフェイスで常に物の見方もニュートラル、誰しもの心にいる"少年のままの心"(サン=テグジュペリの星の王子さまのような童心)が特徴的でしたが、今作の彼はとても人間らしい言動で別人のよう。また話の大半は第三者の目から物語が進んでいく事が多く(グレン・スミスに始まり、終盤のオービン卿然り)、その人目線でエドガー達を俯瞰して読む事も楽しめましたが、今回のビアンカ達には全く入り込めなかったのも一因といえるでしょう。
    最近の萩尾先生の作品には、初期の美しい思想や詩、言葉回し、あのシャボン玉が割れるまでの幻想的で儚い世界観がないんですよね。絵柄や漫画構成、姿勢がすっかり変わり、ああもうかつて愛したエドガーやアラン、青の黄昏に生きる人々はいないのだ、と余計に彼らの死を突きつけられました。それはアランがエディスを助ける為に身を投じたシーンを読んだ時よりも遥かにずっと悲しい。
    漫画って、絵で織り成す物語です。紙の中で生き続ける世界が確かにそこにあるんです。漂う青い濃霧や重苦しいヨーロッパの空気、紅茶に垂らして立ちのぼるバラの香り...実際にその銀の時をともに駆けていく錯覚さえ覚えるほど、五感で味わう強烈な"訴え"が嘘のように時代に流れ去っていたので、余計に落胆せざるを得ません。
    時が経てば経つほど、技術や経験、知識が増えて、より素晴らしい作品を生み出せそうですが、初期の方が拙くとも荒ぶる感じや伝えたい事が前面に出てて、味があったりします。
    あの時、銀色の時にオービン卿がエドガーとポーの一族に想いを馳せたように、これからも私はあの時代の彼らを見つめ、感じ、今回の続編は読まなかった事にしたいと思います。
  • 砂の城

    一条ゆかり

    砂の城に生きる私達とは
    ネタバレ
    2020年7月25日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 一条ゆかり先生といえば、ドロドロとした女の情感を大好物とする少女漫画界の大御所。この「砂の城」はドラマ化もされた80年代恋愛漫画における金字塔的名作です。「悲劇のヒロイン」という言葉は、この主人公ナタリーの為にある言葉かといわんばかりの悲劇っぷり。孤児や格差社会、駆け落ちに心中、記憶喪失をふんだんに織り交ぜながら、不幸続きで怒涛の展開が大波になって読者を呑み込んでいきます。
    当時、一条先生は自立した活発な女性が好きで、敢えて本作では対照的な主人公を描くのに挑戦したそう。あまりの悲惨さに初見では可哀想だとナタリーに同情したけれど、読み進めていくほど、作中でエレーヌが明言したように「身を焼き尽くすほど愛する相手を見つけられた貴女は一番幸福な女なのかもしれない」と思い始めました。たびたび周囲や過去に囚われすぎて自分の幸せを優先できない姿も最初は理解できず、どうしてと苛立ちさえ募りましたが、『王子様とお姫様を含めて皆が幸せになる物語』を誰よりも尊く想い、それを絵本にして名誉実力ともに世界的に評価された人だからこそだったのかなぁと。おとぎ話の中に身を置き、現実世界の理不尽を恐れ、自分の砂の城が崩れるのではないか...と終始、情緒不安定なナタリー。でも本当は、城が崩れて流されても、また一から作る強さが人間にはあるのだと言いたいですよね。実際、どんな悲劇の波が幾度と襲いかかろうと、全てを流されてしまうわけでなく、彼女の側にはいつも絶えず大切な友人達やフランシスがいましたよね。それは、時に絵本として読者に寄り添い、時に恋人としてフランシスの白昼夢に現れたナタリー自身も同じです。たとえ、命を波にさらわれてしまった後でさえも、エディットのように新たな時代を生きる人達の中にだって、ナタリーは生きています。そうして誰かの「砂の城」があった場所に今度は次世代の子ども達が新たな「砂の城」を作っていく...。人の命、そして、人生とはこういうものだと改めて気づかされる、素晴らしい作品であることに間違いないでしょう。
  • お嬢様はお仕置きが好き

    もりなかもなか

    SとMの申し子みたいな恋人達の聖域
    ネタバレ
    2020年7月24日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 元々別のペンネーム時代から好きな作家さんでしたので、今回キス以上の展開てんこ盛りの新作に、自分へのご褒美かと目に涙、手に汗浮かべて読ませて頂きました。確かに他のユーザー様のご指摘通り、非現実的展開やご都合主義的な設定もあるので、好き嫌いがハッキリ別れると思います。好きな子をなんで叩いちゃう?それを悦ぶ主人公なに?って不快になる方にはお勧めできないほどの変態祭り。衝撃的なのは、丁寧な描き込みと可愛い絵のタッチにまさかの、SMプレイ。お尻叩きから縄縛り、首輪つけてお座りに、ワンとまで吠えちゃう主人公。16巻時点で本番はありませんが、途中これでもかと、異常な溺愛束縛系美男子からくすぶられるエロスの嵐に、成人向け作品以上の官能さだと翻弄されていきます。ただ欲情して、突っ込んで、みだらに乱れて...だけでなく、深層心理的な所まで丁寧に描かれているので読み応えは抜群です。
    ちなみにSMのSはサディストの略ですが、一説ではサービスとも捉えられます。つまり、要求に応え、満足させる役割。よくある俺様で自分本位にマウント取ろうとする不快感はこの夏樹くんには一切なく、後者の意味合いの方が強く出ているように感じます。自分はサイコパスなのだと認識し、サディスティックな行為をサービスする紳士。4Sですよ。そんな彼に愛される主人公は、Mの申し子のような、魅力的で、マゾで、ちょっと間抜けで、とにかく満たされてゆく桃子。この作品は、他者の文句や常識はもはや意を成さない、恋人達の聖域を終始見せつけられてる感。夏樹くんの授業の延長を覗き見している感もあります。お嬢様はお仕置きがお好き。私は、そんな2人を見るのがお好き。今後の展開に目が離せません。
  • プライド(一条ゆかり)

    一条ゆかり

    ほんとうのプライドは
    ネタバレ
    2018年7月24日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 一見単なる女のドロドロ話ですが読み進めていくにつれて壮大かつ深い作品であることが分かります。さすが一条先生、終始テンポが良くて次から次へと読ませてくれます!題名どおり、人、親、歌手、女として...各々のプライドを情感あふれる物語やドラマティックな展開...またしみじみと深く考えさせられる場面もあり、人生の波や経験を積んできた人にはグサッと胸を刺された名言も多くあったはず。
    ちなみにこの物語、最初と最後が同じ家でリンクしていますね。細かく言うと、萌が"史緒の家"に入るところから始まり、萌の娘が"史緒の家"で史緒本人を迎え入れるところで終わっています。が、親子でありながら二人の態度は対照的。大豪邸や史緒を前に緊張していた萌と違い、美恵はグランドピアノに戦慄くどころか、誕生日プレゼントにはおもちゃでなく本物のグランドピアノがいいとハッキリ所望するほど。
    結末には賛否両論ありますが、個人的には萌は亡くなる必要があったと思います。なぜなら、美恵こそが萌がなりたかった姿だからです。歪んだ家庭環境による壮絶な経験から愛情と承認欲求の強いヒネクレ者と化していましたが、命をかけて守った娘は本来、萌が持っていたであろう素直で愛らしい母親譲りの子。分身であっても、ようやく萌はみんなを愛し愛される存在になったのですね。
    そして、史緒に「入って」と促されるのではなく「お帰りなさい」と温かく迎え入れるところで幕を下ろしたのはこれ以上ない、感動的な結末といえるでしょう。
    一方で、萌を亡くした史緒は、その後もずっと彼女の姿を求めながら歌手人生を送ります。最後、表現力も技術も名誉も何もかも全てを手に入れた彼女が唯一、欠いているものがあります。萌です。ずっと亡き母から歌を教わってきた史緒。今度は萌の存在から、また多くのことを教わるのでしょうね。
    この作品のなかで本当に伝えたかったプライドとは、史緒にとって生涯、最も誇り高いプライド....それは「萌と二人で一つの歌声を奏でてきたこと」だと思うのですが、皆様はいかがでしょうか?
  • かわいいひと

    斎藤けん

    美しい花々に囲まれた、花園くんの花園
    ネタバレ
    2017年7月26日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 母親と営む花屋の店員で見た目が強面、泣く子も更に泣いて涙だけ置いて逃げちゃう死神系男子・花園は、現役大学生ミスコン優勝者の超絶美少女・日和に告白されて、晴れて恋人同士に。それまで花の手入れと細やかな妄想しか楽しみのなかった彼が、これまでの不運な青春時代を取り戻すかの様に幸せたっぷりな日々を送るお話。珍しく両想いになるまでの過程が主旨ではなく、すでに恋人同士から始まり、以降ほのぼのとした展開と登場人物達の純粋さにひたすら心が洗われてゆきます。全体的にサラリとしたタッチで丁寧に描き込まれ、時折、ぶち込まれる秀逸なギャグの不意打ちに思わず吹き出してしまう事も。季節の行事に沿ったエピソードが多く、移ろいゆく時と二人の変化に終始、仏の顔で微笑ましく見守ってました。外見とは裏腹にロマンチストで乙女な花園と、意外とガッツリ肉食系な日和の立場逆転に悶絶の嵐。また初めての恋愛に対し、花園が嫉妬心や独占欲、度々の自己嫌悪と定期的に行われる一人反省会に翻弄されつつも、全くヒネくれたりせず、純度の高い心のまま二人で乗り越えていく姿に好感を覚えます。この世界の住人には悪意や野望、残酷さは一切なく、全員いい人。まさに類は友を呼ぶ。花園という名の通り、美しい花々に囲まれる運命にある花園くん。彼を中心に取り巻く人々は皆、個性的な美しい花々で、いつしか彼の周りは立派な花園になり、そして死神だと思い込んでいた自分自身も、誰かにとって、たった一つしかない花だったのだと気付く...これが理想の人間関係ですよね。ブーケを作る様に自分という花のまわりを、自分の居心地の良い違う色や種類の美しい花々で包みましょう。私達みんなが実はお花屋さんであり、一本のお花なのだと。ちなみにこのお話、最初と最後が同じ台詞でリンクしてますね。序盤は日和が花園に、終盤は花園が日和に「かっわいいなぁ...!」と心の声が漏れる所で幕が閉じています。1話では、日和が花園の本質を見抜いて出た言葉なのですが、当時の花園はまだ知らない日和の一面を見て首を傾げ、ちょうど1年後、自分も同じ言葉を口にする。ようやく彼が日和の本質に触れ、まるごと愛した瞬間だったのではないでしょうか。感じ方や考え方もよく似た二人。就職後や結婚式など具体的な将来は描かれないままでしたが、花園の切った前髪から射し込む光の様に、明るい未来を二人はこれからも歩いていく事でしょう。