俎上の鯉は二度跳ねる
」のレビュー

俎上の鯉は二度跳ねる

水城せとな

匠作品

ネタバレ
2019年1月17日
このレビューはネタバレを含みます▼ 神作品……というより、匠作品だと思いました。
「神」より落ちると言いたいのではなく、主役二人が癖のある二人で、もろ手を挙げて「大好き!」と言われることはないのではないか?と思える人物なのです。キャラ萌えで、可愛いくてカッコよくて、めっちゃ素敵な二人がラブラブしている神作品!!……とか、切ないくらい純粋な二人の美し過ぎる恋の話……というような良さではなくて、じれったい二人を中心に置くことで浮かび上がる、周囲の人間関係も含んだ、心の葛藤だったり、恋愛の奇麗ではない部分や、どうにもならない感情などが、上手に描かれている作品です。読後、「巧い」と笑いました。作者に脱帽です。男性同士が恋愛関係になるという枠を超えて、男性二人の恋模様から、「人間」の葛藤を描いている。「周りに迷惑だから、とっとと付き合っちゃえよ!」と思う主役二人が、呆れるくらい周りを巻き込みながら、答えを出しては壊し、また別の角度から検証して組み立てて、それでもまた壊し。無様に揺れながらもがきながら、それでもこびりついてしまったかのように引きはがせない互いへの感情に観念して最後の答えをヘトヘトになりながら出していく。それに巻き込まれて期待してしまったり酷いフラれ方をしてしまったり被害者友の会くらい作れそうな状態ですが、その人たちからも、感じるものがそれぞれあって、本当に巧いと思いました。
好みは分かれると思います。正直私も好きな方向性の作品ではないですが、「正しいか正しくないかではなくこれが恋なんだ!」というメッセージを受け取った気がしました。そして、「そうだよね。恋愛って、自分も他人も巻き込んで振り回してしまうような乱暴な一面があるよね」と納得させられてしまった感じです。簡単に決断できないこと、分かっていても立ち止まれないこと。その体験を自分もしているので、その苦さも含めて、「そうだよね」と納得してしまいました。素晴らしいバランスで描かれていると思います。好きじゃないと思ったキャラなのに、最後はくっ付いてくれと応援している自分がいました(笑)。
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