この恋に未来はない
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この恋に未来はない

粉子すわる/森橋ビンゴ

恋よりも大切なもの

2019年1月21日
ずっと性への違和感を抱えて生きてきた主人公が自身の、女性になりたいという気持ちと、同じ男性である親友への恋心の両方を真正面から受け入れられるようになるまでが丁寧に描かれた、漫画だけれど小説のように感じられる作品でした。

登場するキャラクターは皆恋をしていますが、それぞれが報われることはなく…。
ただの恋愛漫画とはまた一味違う、恋する気持ちだけではその先はない、何も生み出すことはできないといった現実的な心理が描かれていました。
夢のある少女漫画とは対照的だと思いましたが、だからこそ現実を見るようなこの作品に胸を打たれるものがありました。

それぞれが失恋したのだと思います。
互いに思いあっていたエツ子さんと正樹さえ、このような形で側にいても真に望んでいたものは手に入らない、互いに腐ってゆくだけなのだと気付いてしまったのだなぁ、と思うとまた切なかったです。
エツ子さんの事情は全て知ることはできなかったので、彼女に今後救いはあるのだろうかと少し心配です。

その点、正樹は仕事も恋も今後自由に生きる権利がある分エツ子さんよりは全然幸せでズルいなという気がしました。彼は性格からして何もかもズルいですが。それでも周りに愛されてしまうズルい男なところが彼の魅力なんでしょうね。

こんな男を好きになってしまって、結局扱いは友人止まりな鮎美ちゃんも可哀想です。中途半端に希望持たされたせいで彼女も今後、正樹への片想いがやめられずお節介やき続けるだろうな…。
正樹は女の子に迫られたら応えるけど、心は誰にもあげない、本当に自由な人だと思います。

正樹はエツ子さんとのことで今後誰かに本気になることは無いのではないでしょうか。
そんな彼の心を唯一癒すことができるのが主人公の雄二だと思います。
女になりたいという雄二が女でないからこそ、関係を持たずにいられる、唯一無二の大切な存在としてずっと側にいることができるのだと思います。
雄二はつらいでしょうが、それでも彼も正樹のことを想い続けるのでしょうし、親友として側にいられることは幸せでしょう。

2人の今後の関係に希望はあるのでは?といった意見もありましたが、私は2人がくっつくことは無いと思います。
ただ、正樹の雄二への感情は恋人をも飛び越えていくと思います。それこそ息を引き取る瞬間に、最後に側にいてほしいのは雄二なのではないでしょうか。
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