愛を盗んだ紳士
」のレビュー

愛を盗んだ紳士

キャロル・マリネッリ/みなみ恵夢

振り回されまくった弁護士の受難と行動力

2019年1月24日
やっぱり最後に愛は勝つ。
とんでもない王女の人使いの荒さも、彼は反発しつつ結局やってあげてしまうから、非情ではないのだ。
この原作者と漫画家の同じ組合せで先頃「一夜に賭けた家なき子」を読んだばかり。同名の王女レイラの氷の家庭からの完全逃亡ストーリーだった。覚悟の永遠の訣別、戻らないだろう。こちらはプチ逃避行で深刻さが異なる。パラレルワールドの如く、愛なき家庭と愛ある家庭で育った対比、似て非なる設定。
終わりを見据えて羽を伸ばす。束の間の自由。だから、バケットリストにチェックを入れるのがせいぜい。本当は戻りたくないけれど家族を悲しませたくないと心の中で泣いて。
二作品共製作した原作者の実験的精神を感じる。

その育った環境のために、彼女は普通の女の子になれなかった、そういう育てられ方がされなかった、そんな境遇が気の毒なのは共通している。モノローグの多いのも少し似てる。こちらはあちらほど特異な手法を用いた感じはしないが。

レイラの胸中も余命宣告前のようではないのかと想像させ、中途半端に選択範囲の狭い、形ばかりの夫選びのさだめを甘受させられそうな状況が、超保守的な世界に生きる彼女らに奇妙にダブる。状況打開の期待がこみ上げる。

彼の行動力には目を見張る熱さがあって、前半の冷めた投げやりな人間がこうまで動けるものかと、良いキャラ変ぶりに期待高まる。。私は新鮮に見守る心持ちで、頁をめくりながら胸の中で一緒に走り出していた。

ハーレクイン的なところをあまり感じないといえるのに、一方で、このローマの休日ならぬ王女のオーストラリアの休日のひねり中東阪のハピエンのなかに、やっぱりハーレクインだった、とも、思えた。

性的描写は相当あるがその事を直截的に見せず、語らせて想像させるという手法。
それでも、この作品は二人が最後まで行かないだけで、寧ろずっと挑発的表現によりギリギリのところを煽り続けている。

レイラの第一印象について、彼に月に喩えて語らせたことで、中東系らしさが少し増した。窮屈で厳格な王家という設定で、女性を抑圧しているイメージをロマンスの形を借りて象徴させた意図も感じる。HQはシークもので男性の民族衣装姿がやけに多いが、男性はジーパンでも、女性には黒装束させるのが今の中東だから、なかなかこのストーリーは鋭いところを、目先を変えて暗に示しているのが巧いと思った。
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