リヌッチ家の息子たち Ⅴ 美しき幻
」のレビュー

リヌッチ家の息子たち Ⅴ 美しき幻

ルーシー・ゴードン/伊藤悶

金鳳花(キンポウゲ)

2019年3月9日
抑揚の少ないストーリーで、静かに読み終えてしまった。「リヌッチの息子たち」シリーズを読むのは二作目。一作目にはタップリと読んだ読後感があったが、これは、えっもう終わり?、という拍子抜けは、否めない。
私はサクサク読めるものはコスパが悪いと思っているタイプ。じっくり眺める頁だとか、見落としたくなくて少し立ち戻ってもう一度頁を繰る、そんな、読んでる時間を楽しめるほうが好み。話が終わることを名残惜しむかのような寂しさとか、作品中の人間たちや物事の経過や変遷を、まるで側に感じとるくらいが。
本作は少しヒロインへの入り込みが私の気持ちに足りなかった。従姉妹の恋の後始末、引け目、それでもなお親しかった、という関係性への共感を、もっと持たせてくれたら、と思う。
彼の気持ちの自覚も、描写が淡々とし過ぎており、ラストに向かうには起爆剤としての存在感薄い。
事故現場に居合わせてからの継続的な看護についても、不自然さを持たれず居宅に滞在が延び、あとから、“何かあると思った”、とは、かなり呑気な流れ。まず簡単でも身元確認では?
看護婦資格があろうと、どのような資格があって寄り添っているのか?、との漠然とした疑念を、話の中で誰も問わないのは流石に妙。問い詰める必要はないが、やはりそこはあれだけ大勢身内がいて、入り込んでいるのだが!?
まず病院自身の看護体制はどうなっている?

ただ、美しい従姉妹と心を通わせていた経緯をヒロインが語るシーンは、訴えるものがあった。

マシューへおもちゃを買い与えてのテヘペロなど、厚みのある家族愛のシーンも読んでいて素敵なリヌッチ家の内部、という感じで良かった。
マッティの泣く場面の彼の胸中、母恋しのマッティを描写するところは良かったが、ヒロインを見つけヒロインと二人、残された者としての哀しみを共有する二人の場面としての、このストーリー上に占める分量はもっともっとあっても、という気はする。

結末は分量に不満があるわけではないが、重要な小道具にはもう少し盛り上げが欲しかった。

職場のcanteenを使うのは「!」だった。髪型、制服、色々考えると、もう見間違えないということを端的に示せて、物語の語り手のアイディアがナイス。
いいねしたユーザ1人
レビューをシェアしよう!