このレビューはネタバレを含みます▼
普段自覚していない自分の中の孤独感に誰かが寄り添ってくれたような安心感、そんなものを感じる温かいストーリーでした。「人はもっと寄り添って生きたほうがいいわね」ママたちの言葉は優しく明るく、豪快で活気に溢れている。それらがよくある薄っぺらな綺麗事に収まらないのは、戦中戦後の混乱と貧困、そして復興と経済成長という激動の昭和を確かに生き抜いてきた労働者達の悲哀と逞しさがあるから。そして会話に次々出てくる何気ない冗談が飛び抜けてセンス良く笑いに変えてくれる。人が皆どこかに抱えているような暗い気持ちを包んだり吹き飛ばしてくれるようなパワーは人情味に溢れているのだけれど、押し付けがましくなく説教くさくなく描かれているのが良い。主人公が40独身でもヒネず腐らず少女のように素直だから尚良いのだろうな(ただちょっと幼く若く描かれすぎな気もするが)。世間は老いや未婚にあまりにネガティブで厳しすぎる。こんな温かい居場所が、他人への優しさが、笑い飛ばせる強さが誰にもあったならいいのに、そう思わずにはいられない。読み終えても、何度も何度も読んでしまう。手塚治虫文化賞、大賞納得の満足の1冊です。ただ一つ腑に落ちなかったのはループ設定なのか歳をとらないこと。作中通して3年以上のはずですが主人公はずっと40歳と名乗り続ける。。バーとママ達の過去は実際の戦後史をなぞり、主人公自身もホステスとして成長しバーの変化と歴史を紡ぐひとつになっているのに...なぜループにしたのか?イマイチわかりませんでした。そこだけ唯一のマイナスポイント。