情熱の国へようこそ
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情熱の国へようこそ

牧あけみ/ブリタニー・ヤング

情熱を知ってしまったら昔には戻れない

2019年6月14日
アンナは頭が良い。もちろんエステバンも。アンナの情熱は父親との仕事しかなかった。きっとそれは努力に裏付けされた成果を上げてきたせいだろう。エステバンに惹かれてゆくアンナ。しかし、アンナは定住せずに暮らしてきたから結婚生活についてのビジョンがない。会社の利益を優先してきただけに良心が疼く。大恋愛の末結ばれた従妹のヘイリーの結婚生活の現実を見てしまっているからなおさらだ。エステバンも同じ。彼女が身を置いている生活は、あまりにも自分とはかけ離れていて何をどうすれば「幸福」を得られるのか彼は悩み続けて手をこまねいている。それでも作中二人の会話はとてもシンプルで的を得ていてわかりやすい。言葉少ななのにその心中が透けて見える。だから、アンナの父親から娘を諦めろと小切手を渡されたエステバンがアンナに別れを告げるのは、そう言えばその逆に彼女は自分のところに来ると考えていたように思えてならない。会社などどうでもよい。それはアンナの父親の物であって、継承者がいないならそれまでの事だ。父親は企業家でも子供も同じでなければならないわけではないのだから。ただ、頭は良くても原始的に近い生活は苦しいはず。それを「愛」だけで乗り切ろうというのかとアンナの父親側に立ってしまう。意固地になった父親が孫に会いに来たエンディングではエステバンが父親を説得してくれた事実に「僕は君を愛しているだけだよ」とキザ!なセリフが相応しいシーンになっていた。
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