そこまで愛せる人に出逢えていいなぁ、と物語世界の住人なのに羨ましく思う。今ある暮らしを捨てて異なる生活環境に、しかも異国の都会でないところに住むとか(かの地での過酷な日々に耐えられなくなった人を身近に見ながらも)、親や親戚との血縁を絶ち切るとか、もう、足がすくむ飛び込みをやり遂げられる相手に出逢えるなんて、夢だ。私にはそんな経験が出来ないから、こうして物語で味あわせてもらう。もう、HQはこれだから疲れた心のサプリメント。ひとときのロマンチック気分でどこか自分に幸せを分けてくれる感じ。
牧先生の描かれる二人で歩いた暑いアンダルシアの絵が気に入った。
水もろくに飲めない(飲むべきという現実は置いておいて)その乾いた大地での二人、2日がかりの徒歩強行が、何かが足りないか直ぐに快適に変わるとは限らないかの、不馴れで不便な状況に、泣き言言わず過ごすことの出来るヒロインの強くて前向きな精神力を早い内に描写。彼はそんな彼女を知れば知るほど好ましく思うし、彼女は彼女で彼と過ごす時間が増えるほどに否定したくても避けようとしても、彼を想ってしまうことから逃げられない。二人の親密さばかりが募っていく。
スペイン人て異教徒占領の歴史要素でハンサムの隠れ宝庫と思うが、そのちょっと独特な、エキゾチズム漂う雰囲気が感じ取れる。ムーア人の血を引くという設定がピンと来る。地元のライバル女性もスペインぽさが出ている。
色々な年齢層、何人もの子供達、さりげなく描き分ける巧みさが物語の人間それぞれに個々の質感を持たせる。親子の対立、手近な相手に手を打つかどうか、家を捨てられるのか、全く異なる環境への順応、愛を取るのか、等々の古典的な内容が絵力で生命力を放つ。
心理描写も言葉のみに頼らず視覚的表現でアピールしている。
チャーミングな人物画を描く牧先生の、その人物のビジュアルだけではない、その他の各種の表現場で、お力を見させてもらえた。
こういう力を持っている先生でないと、この話は退屈になったかもしれない。
ただ、仕事熱心な副社長去った後の会社はどうなったのか、と想像するとそれはそれで気の毒なのかもしれない。
彼の葛藤シーンも相当良かった!
頁にひとコマの、多用は牧先生には珍しいほうと思う。ちょっと多過ぎの気もするが、心理描写は効果も感じた。
特に旅情を誘う場面が無いのに、スペインに行きたくなる。