氷の紳士に拾われた家政婦
」のレビュー

氷の紳士に拾われた家政婦

ロレイン・ヒース/琴葉かいら

ハーレクインノベルで初めて位の読みごたえ

2019年6月22日
これほど作りのうまい物語をハーレクインで読めて嬉しい。ハーレクイン小説は少ない作品数しか読んではいないが、その内ではピカ一ではないかと。活字好きな人なら、この面白さをよく楽しめると思う。
コミック派の私だが、記憶喪失は絵で表現することの限界もある。じっくりと、記憶を失ったヒロインの世界を堪能した。

血ではない、生まれでもない、職業でもない、そんなことがシンプルに貫かれ、ロマンスは中盤までかなり抑制されているため、そっちの盛り上がりを期待するひとは、物語前半が暗中模索過ぎて退屈するかも。しかし、二人だけの空間はエロティックなのだ。息づかいが聞こえそうなほど。

序盤のレディ・オフィーリアの小憎らしいこと!
1頁目既にドレーク視点で入っていく語りから、彼の出自には彼には何ら責任がないのに、彼の引け目、立ち位置を明確に出してくる。各キャラの色分けが、妥協がなくて技巧すら感じる。余計に彼女の高慢さ、意地悪さ、人を見下す言動に含まれる頑なさを見て、ドレークのその後の行動を正当化する読者の納得感を用意。氷なのは彼女の方。彼の家に段々僅かな温もり感が出てくる。ひんやりとした感触の二人の関係は初め妖しく危なっかしく、徐々に、緊張と、陥落に近づく可能性の高まりで、熱量が上がっていく。氷の仮面の下の温かいもの。互いを意識する二人が、巧まざる誘惑を重ねる。読み手のこちらに、ドレークへ理不尽な扱いをするヒロインの冷酷さを見せつけたあと、人が変わった彼女が見せるギャップ、意図せざるツンデレにドレークは(予想通りなのだが)ひれ伏してしまう。

彼女は加害者として登場し、被害者として苦しんだところを見せる。ドラマは記憶喪失も負けぬほど先が見えない。

唸るほどスリリングな進行。重すぎないが、重さがある。

今迄読んだハーレクイン小説では、最も良くできていると感じた。翻訳が、原作をどう伝えてるかわからないが、巧みに言葉のリズムがあって突っかかったりしないで読める。

只「少年」「路上」等は、引っ掛かりを覚えてしまう語であった。声がかすれるのは緊張を感じさせて却って雄弁だが、しゃがれ声はイケメンvoiceではないと思うが?

身分のこだわりや血の繋がりに壁を作らぬ公爵家が理想形として美しく麗しく結ばれ、特に育ての親の崇高なまでの愛がいい。

改頁を利用した展開にも工夫が。漫画の作図右上第1コマ目のように。
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