ひかる物語~非モテOLが異世界にタイムスリップしたらこの世の春が来ました~【マイクロ】
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ひかる物語~非モテOLが異世界にタイムスリップしたらこの世の春が来ました~【マイクロ】

成海柚希

好きって何だ(哲学)?

ネタバレ
2019年11月10日
このレビューはネタバレを含みます▼ ファンタジー少女漫画ではあるが、「女の容姿」と「男の愛」についてちょっと考えさせられた。
現代では容姿ヒエラルキー最下層に位置する主人公。「下膨れ」「麻呂眉」「おちょぼ口」の三拍子が揃った「オカメフェイス」。そんな「顔面底辺」な主人公が平安時代にタイムスリップし、そこでイケメン上流貴公子に「オカメ顔=平安美女」として熱愛されるという、ちょっとお笑い要素ありな平安チックファンタジー漫画が当作品だ。なお、先にこの作品に関する注意点を前述しておくと、この作品は「何となく平安時代っぽいファンタジー漫画」くらいに思っておいた方がいい。「平安時代の風俗文化の時代考証」などといった高尚な視点で見てはならないし、オカメ顔=平安美女という審美眼が浸透した世界でありながら、貴公子たちはいずれも現代風のイケメン揃いという「作品内の美の尺度の破綻」に言及するのもナンセンスだ。
さて。感想だが、この作品においてもっとも肝心なのはこのオカメ主人公の「女の存在価値」の反転である。現代でも平安時代(っぽい世界)でも、オカメフェイスは何一つ変わらない主人公。現代においてはブスだのなんだのと理不尽な扱いを受け侮辱され見下され、平安時代では「絶世の美女」と持て囃されて惚れられる。現代・平安(もどき)の両舞台を境に、主人公に対する周囲の男達の態度は全く真逆に描かれている。美しさ次第で「君の為なら死ねる」と言われ「消え失せろブス」と言われてしまう(※作中ではもっとマイルドな表現)主人公。漫画だから笑って済むが、この辺りに人間の本質的な愚かさと浅はかさ、不幸の根源があるように思えてならない。そして何より業が深いのが主人公だ。周囲に容姿を酷評される半生を送りながらも、(現代風)イケメン貴公子に言い寄られると、容易く籠絡されてしまう。そこにはオカメな容姿ゆえに受けた理不尽への怒りや人間への不信感など微塵もない。だがしかし、果たしてオカメ主人公は彼ら貴公子の顔面が自分と同じくオカメ顔であった時、彼らの好意に応えたのだろうか?あるいは、容姿一つで語られる愛に疑問を抱かないのだろうか。彼らは主人公の「器」が好きなだけに過ぎないのではないか。などなど。そんな事をオカメが哲学する平安ファンタジー作品であれば、この漫画はもっと別の意味でも面白くなっただろう。
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