結婚に自由のない古いイギリス良家の子女

犠牲者が多かったのだろう。好きでもない人と、親が決めて結婚しなければならない時代。相手が身の毛もよだつ心と外見の醜さを持っていたら？何人も奥さんを変えていたら？次々妻が不審死をしていたら？悪人だったら？第六感の警告。逃げ道無し、死を考える。
沢山昔はあったろう。

とにかくそういう形でしか死なずにいる方法がなかったわけだ。

昔とある温泉へ旅行したとき、仲居さんが打ち明け話してくれた。住み込みとか、近くに社員寮がある働き口は、訳ありで隠れて生きていかなければならない者達の避難場所、身を隠せる場所なんですと。そして、雇用主も事情あり(知っていることもあると)を承知で雇ってくれていると。

胸がキリキリする話だ。そんな思いで飛び出し、もうどこへも行けなくて、そんな女がどうやって生きていくか。
身寄りのない若い女が、それもキレイな女が、世を忍んで暮らす？。まず手に職だ。村人が察して黙っている。ただ、美しさは、隠しても気づく人が出てしまう。

女の嫉妬は厄介だ。人の生命の危険、事件の可能性があろうと知ったこっちゃない、というその無責任さが腹立たしい。

仮に男性の関心をめぐっての構図でなくとも、人はその嫉妬心で、憎悪対象を葬り去ろうとする残酷な事が出来てしまう。
本当はそういう人にバチが当たって欲しいと思うくらい。
本作は人妻対人妻だが。

ファンタジーを語る男は、現実的な人間でもあった。実際に彼女の境遇を形作った元凶を調査した。その行動力は、彼女を悩ます憂いを取り除きたかったことも、多分あるだろうが、身を隠さないで済む未来にしてやりたかったのだろうし、全てクリーンにしたらヒロインと向き合えることを望んだからだろう。

牧師様はなんと尊いことを！。
世の中には、どこにも行くあてがないと思ったときに、差しのべる手もあるのだと、行くあてもあるのだと、さらには愛してくれる人にも会えるのだと、そんな夢を与える話に思える。
HQはある意味ファンタジー。
全てがその夢の中で、どこかフワッと仕上げられたいい夢物語を、長崎先生の独特の筆遣いで幻を見るような気持ちで読んだ。野草園兼菜園が特に気だるくて、のんびりした時間と空間を味わうヒロインがよく伝わった。この二人が一緒になると、村で彼女が担っていた役目はどうなるのだろう。家と庭にはたまには来るのだろうか。
するとあの性悪さんが村にいるのだし・・