リウーを待ちながら
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リウーを待ちながら

朱戸アオ

感染爆発の恐怖

ネタバレ
2020年5月22日
このレビューはネタバレを含みます▼ 突然始まり、物凄い勢いで広がり、そして、人がばたばた死んでいく。
主人公は目の前の患者を兎に角少しでも多く早く診療に当たるのみである。
そこに、組織の上が素早い対策に走ろうとする現場を制したり、また一方で、先回りして出来ることに着手していくフットワークの軽い、詳しい専門家もいる。誰もが迷い迷い最良の策を探している。
ことは小さな病院の中だけではない。自治体レベルを超えて国による緊急事態宣言がその地域に発せられる。住民は恐怖と隣り合わせの中で、日々を生きなければならない。人の流出入が制限されるとき、身内の危篤にも立ち会えない。住民は疑心暗鬼と風評という迫害を受けてしまう。善意で動いた人が感染してしまう。
肺ペストとは実在し、検索すれば容易にわかるが時折ニュースに顔を出すから恐ろしい。現在新型コロナウィルス禍前にこうした題材を取り上げていた意味がある。そして、ある映画評論家M氏の言葉を思い出す。「パニック映画というものは、そういうときに人間はどうかを考察、そんなとき自分ならどうなのかを想像、自分が実際に遭遇したときの予行演習のようなもの」というようなことを言っていた。その映画は大惨事を扱うものだったが、「疫病の大感染」でもそのようなことが起こったらどうなるか、どうするか、どうしたらよいのか、本作もこれらを考える機会を与えてくれる。漫画という視覚的わかり易さで臨場感に訴えるものこそ、想定上の様相を示唆する貴重な1教材として、読者の心にひとつ生きると思う。
最近「JIN-仁」を読んだが、多くの疫病を扱っていた(コレラ、はしか、梅毒等)。
一方こちらはひとつを絞り込んで、不気味な始まりから、手探りで現場の従事者・研究者たちが大勢の犠牲者の発生を経て何かを見出していくまでを描く、息詰まるひとつながりのストーリーである。絵やストーリー進行は少女漫画好みの私には大変厳しいが、淡々としている部分もあることが逆にドキュメンタリーのように迫ってくる。描かれていることは一方で、現代の私たちがつい最近経験している、資材や設備の不足、人材の不足、医療関係者も倒れるリアルな現象である。読んでいて、これほど真に迫ると感じられることはなかった。多分、この時期だからかとは思うが、最後迄読んでおくことは、上述の映画評論家の言葉、その中で自分は果たして何をするかできるのか、を考察することになっていいと思う。
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