ラムスプリンガの情景
」のレビュー

ラムスプリンガの情景

吾妻香夜

地雷なんて気にならないくらいの名作です!

ネタバレ
2020年7月6日
このレビューはネタバレを含みます▼ 受のダンサー志望・オズが体を売っているのは個人的に地雷なんですが、みなさんのレビューに「映画を観たよう」とあったので、それを信じて購入しました。
映画のよう、の口コミがあるお話にまず外れはないので。
結果、読んで良かったです!

アーミッシュの純粋な青年テオと出会うことで、オズの抱えていた傷が癒され、またオズとの出会いでテオは世界の広さと沢山の感情を知る……。
テオの成長が眩しいです。
「天使のよう」なだけだったら、テオは人としての本当の喜びは知らないままに死んでいったんじゃないかなと思います。代償として、苦しみや憎しみも知ってしまうんですが。

「僕は今なら何をしたって許されるんだ」と言い放つ場面には震えました。ラムスプリンガなら人をあやめてしまっても許される、そんなテオの激情が表されているようで。
チンピラに殴られた時、本当は彼が何を考えていたのかを知ってから読み返すと、お話により深みが出ます。
何回も何回も読み返しました。

ダニーがオズにキスをしたのは、テオがアーミッシュを、自分を捨てると言うほど好きになったものを知りたかったから? 恋というより執着に思えました。
テオがクロエに告げた言葉は、だいぶ合っている気がします。
でも、きっとそれだけじゃない。
感情って複雑ですもんね。言葉では言い表せない。

オズもテオもダニーも好きです。
誰の生き方も否定できない。今まで頑張ったね、これからは幸せに……と言ってあげたい。
彼らが本当に生きているように思えるお話でした。

オズが踊るシーン、クロエが髪をほどく場面、テオが激情をあらわにするシーン、ダニーが泣き叫ぶ姿、夕陽に向かって消えていくシーン、至るところに印象的な名場面が散りばめられています。

絵柄がちょっと古くさいかな、なんて最初に思っていた自分に言いたいです。
このお話は紛れもなく名作で、作者様は天才だと。
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