嵐のあと
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嵐のあと

日高ショーコ

男性が女性っぽくなくきれい

2020年9月19日
大作「憂鬱な朝」含めると16冊目の日高ショーコ先生作品購入。ドラマも絵も抜群に良いので、総じて価格高いBLにあって満足度バッチリ。人物描写や状況設定に絵的に説得力がある。だから、心情に違和感が無い。ドラマ材料の選び取り方が的確で、言葉が各キャラを丁度に映している気にさせられる。
作れる作家。描ける作家。リアリティーを出せる作家。
だから、作品のどれもが印象的。

三部作「シグナル」「嵐のあと」「初恋のあとさき」はメイン二人の組合せ全て、特にその性的志向が自覚的にはなかった人間が恋に落ちるストーリー。本作は3作品中最も性的描写が少ないのでレビューを書くことにした。
最近映画化された水城せとな先生作品(映画観賞済)も、組合せとすればそれなのだが、このタイプのBL、様々なものができるものだと、改めて感じた。

日高先生作品の凄さは、職業のある大人の男性がリアルにそこに居る感じだろう。舞台が本当らしく見えて仕方がない。
ストーリーに紡ぐものも、その巧みな場の切り取り方、結末の引き方の為に、余白余韻行間の美がドラマの奥行きを広げる。

アフター5、取引先、学校~社会とカップルの成立ち経路は異なり、相手が同性であることへの受け止め方も様々なのだが、本作の「先の事は深く考えず、飛び込んでみる」岡田が一番好ましく見えた。そして、初恋のあとさきだったか、別書籍の同時収録だったかで、「後悔してるなんて思ってほしくない」と言うのも、悩み深き榊を救っていて清涼感がある。

とりあえず始めてみるスタンスは後日にも外野に責められているが、ポジティブさは3部作の空気をバランス良く調整している。

男性キャラきれいと評価したが、脇役に回っている作品では、余りに感じが違う。ひねくれいじめっ子という要素以外に、口元や顔の輪郭も少し同一人物に見えにくい時がある。本作の美山、シグナルの榊。もっとも、ほかにも、村上など、シグナル内でも雰囲気が変わり岡田寄りだったし、初恋のあとさきの仁科も別人風のときがあったりしたが。

兎に角行き当たりばったりに語っていない、あれやこれや構築された、ドラマというものをわかってらっしゃるような、大人なストーリーの提示方法に敬服。

また、仕事の場面、漫画といわずTVや映画に於いてすら、うそくさいと感じるものが多いが、日高先生の絵って、どんな業界も、きっとそこってそう、と信じさせる。
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