ポーの一族 ユニコーン
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ポーの一族 ユニコーン

萩尾望都

失われた世界の果てに

ネタバレ
2020年9月20日
このレビューはネタバレを含みます▼ 私は人生で最も大切な漫画に「ポーの一族」を挙げますが、作者の萩尾望都先生が描いたからといっても過去の名作に泥を塗る事だって出来ます。そして今回の「ユニコーン」「春の夢」ら続編は悲しいかな、そう感じました。
まず率直に物語と展開、登場人物が面白くない。読み進めるにつれて同一人物が描いたとは思えないほど、ただただツライ。これを「ポーの一族」として出版され、読者に認識してほしくないほどに全くの別物です。70年代の方を"幻想的かつ叙情的な世界観に読者が誘われていた"とすれば、続編は逆に"エドガー達が私達俗世間や現実社会に落ちてきた"と言う表現が正しいかもしれません。現にエドガーはこれまで感情を表に出さないポーカーフェイスで常に物の見方もニュートラル、誰しもの心にいる"少年のままの心"(サン=テグジュペリの星の王子さまのような童心)が特徴的でしたが、今作の彼はとても人間らしい言動で別人のよう。また話の大半は第三者の目から物語が進んでいく事が多く(グレン・スミスに始まり、終盤のオービン卿然り)、その人目線でエドガー達を俯瞰して読む事も楽しめましたが、今回のビアンカ達には全く入り込めなかったのも一因といえるでしょう。
最近の萩尾先生の作品には、初期の美しい思想や詩、言葉回し、あのシャボン玉が割れるまでの幻想的で儚い世界観がないんですよね。絵柄や漫画構成、姿勢がすっかり変わり、ああもうかつて愛したエドガーやアラン、青の黄昏に生きる人々はいないのだ、と余計に彼らの死を突きつけられました。それはアランがエディスを助ける為に身を投じたシーンを読んだ時よりも遥かにずっと悲しい。
漫画って、絵で織り成す物語です。紙の中で生き続ける世界が確かにそこにあるんです。漂う青い濃霧や重苦しいヨーロッパの空気、紅茶に垂らして立ちのぼるバラの香り...実際にその銀の時をともに駆けていく錯覚さえ覚えるほど、五感で味わう強烈な"訴え"が嘘のように時代に流れ去っていたので、余計に落胆せざるを得ません。
時が経てば経つほど、技術や経験、知識が増えて、より素晴らしい作品を生み出せそうですが、初期の方が拙くとも荒ぶる感じや伝えたい事が前面に出てて、味があったりします。
あの時、銀色の時にオービン卿がエドガーとポーの一族に想いを馳せたように、これからも私はあの時代の彼らを見つめ、感じ、今回の続編は読まなかった事にしたいと思います。
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