HEN
」のレビュー

HEN

奥浩哉

やっぱり、変。

ネタバレ
2020年9月20日
このレビューはネタバレを含みます▼ 自分はこれまで異性が恋愛対象だと思っていた主人公・吉田ちずるは、転入生の山田あずみと出会い、初めて恋という感情を知り、戸惑いながらも揺さぶられる激情の数々に振り回され、周囲をも振り回していく、同性愛者をテーマにした学園ラブコメ。
奥浩哉先生といえば「GANTZ」や「いぬやしき」などSFサイコもので有名ですが、個人的にはこちらの「HEN」のようなラブコメ作品が好きです。しかし流石、奥浩哉先生、緻密で綺麗な描き込みと独特な世界観に台詞回し、そこはかとない気味の悪さは圧巻です。20数年前の作品にも関わらず、今見ても一切の古さは感じさせないどころか、むしろ新しさを覚えるほど。
特に主人公のちずるは顔もスタイルも見事なまでの美少女で、運動神経も抜群で成績優秀と天才的なわけですが、もうとにかく美しくて可愛い。それだけで見る価値があると断言できます。描写的なことをいえば、おおきな胸が左右非対称に揺れ動く様は革命的。当時、多くの読者や漫画家が震撼し衝撃を受けたのにも頷けます。
序盤、愛していると好意を寄せる男達に「ドラマの見過ぎなんじゃないの」と冷たく一蹴するほど淡白超えて冷徹ともいえるちずるが、同性のあずみにどっぷり惚れ込み、首ったけになっていく姿は見ていて滑稽で、初恋を前に小学生男子のようにしか振る舞えない、あまりの不器用さに愛おしくなって微笑ましいくらいです。そんなちずるとは対照的に、常に冷静で塩対応なあずみとの温度差が激しく、空回りっぱなし、振り回されっぱなしのちずるの姿が余計に、なんだこの可愛い生物達は...と萌えっぱなしでした。
90年代の芸能界事情を織り交ぜながら、同性間の恋愛問題が発展していく中盤、別作品である「変」の登場人物・佐藤と鈴木も参戦し、そちらを読んでいる方達には胸熱な展開になっていきます。そして、それぞれの落ち着く幸せに終わる...かと思えば、最後の最後で、まさかのどんでん返し。呆気に取られたまま、こうして読み終わった後にしみじみ思うのです。ああ、変だったなぁ、って。
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