ヒミズ
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ヒミズ

古谷実

やりきれない絶望

ネタバレ
2020年12月31日
このレビューはネタバレを含みます▼ クズ親を殺してしまった主人公が絶望の淵に立たされ、生きている間に何とか人の役に立とうと殺すべき悪人を探してもがく、やりきれない話です。主人公の「人に絶対に迷惑をかけない」「人のせいにしない」「平穏に生きる」という彼のいう「普通」は、実は彼の生い立ちからくる高すぎる理想なのだけれど、主人公はそこにしか自分の生きる価値はないと思い込んでいる。運命は不平等で、何でも人のせいにするクズがいる以上、人は簡単に傷つけられるし死ぬし、人生がどうなるかわからない。だから普通の人生なんてもともと存在しない。限られた時間を人に頼ったり頼られたりすることでしか人生の意味も希望も見つけられない。彼の「人の役に立つ」という基準が、ひたすら物理的なものばかりになってしまっているのが何とも切ない。彼の純粋さを慕ってくれている人たちにとっては、実は精神的に彼は充分役立っていたことを思うとやり切れない思いが滲みます。
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