このレビューはネタバレを含みます▼
確かに魅力的な設定であり、読み応えはある話だとは思うが。しかし、瞳子と昇吾・新之助の関係やその後の展開に無理があるので、そこが引っかかり、私としてはあまり評価できない作品に。好きでもない幼馴染の新之助に押し倒されて妊娠した子供を生む瞳子の決断も理解不能だし。また、瞳子の夫の昇吾の決断も特にそうした印象が強い。自分の妻と無理やり関係を持った男の子供に自分の大事な会社を継がせるとか、あり得ない。どうしても他の男の子供を生むと言い張る妻とは離婚するのが妥当な決断。また、これも嫌なものを感じるのがいい夫だった昇吾が突然に淋しさから魔が差したように芙美香という女性を愛人にして、こちらも夫婦以外の間の子供を作ることである。これも愛してもいない新之助の子供を夫と離婚する覚悟までをして生むことにした瞳子の決断と同じく不自然過ぎるし、無理があり過ぎる。これで夫婦お互い様にして、夫を苦しめるのを知りながら他の男の子供を生むという自分の意志を貫き通した瞳子への読者の批判をかわそうとしたとしか思えない。実際にもこの件でも夫ではない、他の男の子を生む決断をした瞳子より、昇吾の方ばかりが批判される傾向のようだし。それに瞳子が仕事関連の男性に迫られても彼女の貞淑さをアピールしており、一層これにより昇吾の不実さを際立たせ、これも嫌ったらしい。それに他の男の子供を生んだ瞳子の行動もこれも間接的な不倫のようなものなのでは?という疑問が残る。新之助を男性として愛していなくても、彼に対して瞳子が何の情もない訳でもないようだし。新之助への異性としての愛情がなければ許されるのか?それにある意味でこれで新之助の瞳子への思いが一種の成就を迎えたようなもの。愛する女性と自分の子供を世に残すという。なぜこの作者はヒロインの夫である昇吾にばかり、厳しいのかと私は感じていたが。作者の他の作品の文庫の後書きによると作者はあまりこの昇吾には思い入れがなく、新之助の方がお気に入りとのこと。やはり、新之助の子供を瞳子に生ませたいばかりにこんな無理のあり過ぎる展開や設定にしたのかと思い、私はしらけた。この作者は新之助のような暗い情念や恋心を燃やす男が好みのようであるが。だから私とは好みが合わないようだ。また、瞳子への愛を理由に瞳子と無理やり関係を持った新之助の行動を正当化するのもいただけない。そんなものは本当の愛ではない。