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松浦だるま

あまりにも哀しい

ネタバレ
2021年2月12日
このレビューはネタバレを含みます▼ 最終巻まで読んでの感想です。※スピンオフ小説『誘-いざな-』は未読なので、あくまで『累』本編のみの感想です)

ストーリーが面白くてハラハラして、とても惹き込まれました。作品としては好きです。でも、メインに据えられている一部のキャラクターがどうしても好きになれなかったです。
特にかさね、ダントツでいざな。かさねも途中から狂気にとらわれすぎていて共感の域を越えていました。ニナだって、あそこまで苦しんだ果てにあんな最期を迎えるのは悲しすぎます。
そして、死ぬはずだったいざなを助けた平坂千草と、いざなの存在が元凶に思えてなりません。いざながいなければ透世の人生もあんなに狂わなかったと思いますし、かさねや野菊も生まれることはなかったでしょう。“生まれてこなければ…”というのは残酷な物言いかもしれませんが、彼女たちの半生を考えるとその方が良かったかもしれないと思うほどに彼女たちが辛い思いをしてきたのを見ていると…あくまで個人的な意見ですが、そう思ってしまいます。
いざなも望まれることの無い生を受け、辛い目に遭ってきたのはわかります。でも、自分の生とその容貌に苦しんできた彼女が、こども(かさね)を持つようになることに私は共感できませんでした。最愛の人(海堂凪)に似ているだけ(まぁ兄弟なんですけど)の海堂与を求めることも理解不能でした。

終盤に登場する重要人物の海堂凪も、浪乃(いざなが妬んで殺した同郷の少女)が忘れられず研究も手につかないほど憔悴しきっているのに最後の情け?かいざなに告白めいた言葉をかけるって…ブレブレすぎて理解に苦しみました。恋人を殺され、しかも殺した女が恋人に成り代わっていたのに(しかも騙されたまま体も重ねた?)。あまりにひどいので、告白はいざなの妄想なのかなと思った方がしっくりきます。

最早顔芸担当になってしまっている野菊ですが、女優としての淵透世(いざな)ではなく、実母の透世さんの面影が垣間見えるシーン(白糸さん家のねこ)だけが癒しでした。

“生きる”とは、綺麗事ではありません。何故平坂千草はいざなを生かしてしまったのか…。どの人物も救われることなく、それが物語の最後の最後まで続く哀しさに、やっぱり朱磐の風習が正しかったと思わずにはいられませんでした。
子は親を選べないので、その点でかさねはとても不憫に思います。

途中までは好きだったので星3で。惜しい作品でした。
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