食べないの? おおかみさん。
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食べないの? おおかみさん。

小石川あお

童話の世界

ネタバレ
2021年2月17日
このレビューはネタバレを含みます▼ なんでしょう、この感動は…。雷に打たれたようです。本当に絵本を読んでいるような気持ちになりました。森の中は童話の世界。赤ずきんや人魚姫、美女と野獣などを彷彿とさせます。妖精や一角獣、人魚に精霊など、ふわふわしたユメカワな登場人物たち。その中に人間の少年、太郎がいい意味で生っぽく、生きている、成長している姿が描かれています。少年が大人になっていく過程が素晴らしい。大人になるにつれて狼が心揺れるのも致し方ない。だって太郎ちゃんたらあんなに可愛いんですもの!好き好きオーラ、食べて食べてアピールがすごい。そんな太郎ちゃんを手離す理由は、愛するがゆえに『人として』幸せになってほしいという願いですよね。食べてしまいたいけど、食べてはいけないという葛藤。本当は離したくないのに、心を鬼に(狼に?)して拒絶する切なさ。それを太郎ちゃんは突然の別れで飲み込んで、大人になって好きな人のところへ帰ってくる。ラストはプリンセス童話のようにハッピーエンドです。神様の睦合いで森はこれからも豊かに季節を迎えることでしょう。永遠に…。ストーリーと絵柄、描写も素晴らしくマッチしており、本当に絵本のようでした。怖い狼と可愛い太郎ちゃんの対比、静かな森の舞台に生き生きとした生命たち。穏やかと不穏のアンサンブル。切ない別れから幸せな再会へのカタルシス。絶妙なバランスが、美しく繊細で、ときには力強く、ときにはコミカルなタッチで描かれています。大判のハードカバーで重厚な金箔の装丁で出してほしいくらい、世界観の素晴らしい作品でした。
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