このレビューはネタバレを含みます▼
『ACCA13区監察課』でオノ・ナツメさんを知りました。今回も外国のおしゃれで小粋な世界観を楽しめるかと思いきや、全く違う作風で期待を裏切られました。
小説家ジムが友人イアンの人生を小説にすると約束する場面から物語が始まるのですが、先に結末を見せてしまう構成が見事です。彼の願いは家族と幸せに過ごすこと、両親に愛されること。そのためにひたすら走り、彷徨い続けながら、自分の過酷な運命を呪うことなく、純粋に幸せを求め続ける。このデフォルメされた可愛い絵でなかったら読めなかっただろうなと思うくらい、読むのに覚悟が要る作品です。
映画の絵コンテかと思うくらいに頭の中で映像が浮かび、あまり語られない台詞や絵だけで見せる沈黙、静かに淡々と進んでいく中にも人生がいかに不条理なものかを思い知らされるような気がします。
「ツキの全くなかった」イアンにも確かに幸せな瞬間があり、ジムは自らも演出に加わることで彼の記憶や存在を永遠のものにしたかったのかな…と、読後もあれこれ考えさせられました。
決して元気が出るわけでもないし、むしろ落ち込む方だと思いますが、それでもたまにイアンの屈託のない笑顔に会いたくなります。漫画でありながら映画を観たかのような、不思議な感覚になる作品でした。