ブラック・ジャック 手塚治虫文庫全集
」のレビュー

ブラック・ジャック 手塚治虫文庫全集

手塚治虫

先駆者としていつも新しいドラマ世界を開拓

2021年3月15日
短編に必ず宿るドラマ性。その視点、正義感。娯楽要素もあり楽しませられ乍ら、ちょっと視野が広がった気になったものだった。
語りが説教調でないのに、とても遠回しに社会の矛盾がつつかれていたり、自分のなかで眠っていた根源的な疑問へ問いかけがあり、間接的に哲学問答が自分の中で始まったりもする。次々と新しい作り物の世界を、手塚先生ほど矢継ぎ早に面白く見せてくれて、まさにずっと最高峰で輝かしい業績を遂げられていた漫画家は、以前も以後も、もう居ないと思う。こんなに何発も個性的なストーリーを産み出して、しかも膨大な傑作群を送り出し、「巨匠」の座に安住されることなくずっと現役漫画家でいらした。
ブラックジャックも、当時は新しかった。何もかも、新鮮だった。そして、まず間違いなくテレビ朝日のドラマ「ドクターX」なども影響を受けた口に違いない、と思ってしまう。

手塚先生がいたから漫画が今日こんなに面白くなった。お話の題材の豊富さ、とても驚かされていた。何をどう描くか、オリジナリティーが充満していて印象的。

ギャグの感覚には私はついていけないものを感じていたが、先生は「劇画」をやる必要なんてなく、別に絵に色っぽさなど無くても、先生の漫画は十分面白かった。
ピノコのビジュアルも私にはちょっと子供っぽすぎたが、それはそれで手塚漫画の世界なのだと思う。

宝塚市の手塚治虫記念館で画業の一部を見たとき、亡くなられてしまったことによる漫画界の損失の大きさをひしと感じた。
「ジャングル大帝レオ」のソックリが「ライオンキング」として発表されたときは本当に驚いたものだ。先生がある種敬意を抱いていた筈のディズニー社がそれをやった、ということに。

ともあれ、代表作が数えきれないほどある手塚先生だが、私の1400レビュー目は「ブラックジャック」しかないと思った(2021夏販売停止のセットHQへのレビューが削除され総数減)。先生のタイトル付けセンスも光り、不滅の輝きを放つ存在。
巨匠は本当に巨大にして偉大な匠だ、と痛感する。

追記: 私はこちらと始まりが同じ紙版(少年チャンピオン/秋田書店)を持っているが、シーモアさんには別の全22巻物があり、試し読みすると編み方が異なっている。編集された所の違いだろうが、どうしてかわからない。同じタイトルで出版されながらだから、意図はある筈なのだが。取り敢えずこちらにレビューを挙げておいた。
いいねしたユーザ7人
レビューをシェアしよう!