このレビューはネタバレを含みます▼
14年にも及ぶ長期連載で、第1回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞と第43回小学館漫画賞青年一般部門を受賞し、今日まで映画化や舞台化と華々しい経歴を持つ本作。物語は戦国時代末〜江戸時代初期、人里離れた山奥で小幡月斎に刺客として育てられた10人の少年少女達が天海の命を受け、再び乱世に戻そうとする者達を枝打ちしていきながら己の役割や存在に苦悩し、紅一点で桁違いの実力と美貌を兼ね備えたあずみの業の深い生き様を描いています。まず1巻につき、何人死ぬのだろう...と気が遠くなるほど壮絶なシーンの連続なのでグロ注意。途中で諦めたくなるトラウマ展開もあり、特にきくと千代蔵の死別、好青年だった俊次郎の成れの果てを含めた雪国編はこたえました。とはいえ、歴史上の人物との絡みやあずみの無双っぷりは爽快で、敵味方問わず個性的なキャラ達が登場しては、ばったばた死んでいくワンパターン気味な展開も何故か面白く一度読むと止められない中毒性があります。映画的な構図やほぼ全て手描きという芸術的な作画も見所のひとつ。santa fe時代の宮沢りえがモデルとなったあずみは時折、美人画を彷彿させる神秘さを放つのに、中身は永遠の少年なのがたまらんギャップで可愛い。四季折々の叙情的な風景も圧巻で、改めて日本の良さをひしひしと感じさせられます。読む度に温泉行きたくなるのと、おにぎり/味噌/焼き魚が無性に食べたくなるのも必至。洗脳教育を受けた子供達の無邪気さとむごさ、純粋培養の恐ろしさを知った衝撃の始まりから、殺戮マシーンだったあずみが次第に一人の人間に成長していく姿は実に感慨深い。が、最強であるが故にいつも愛する仲間達の死を見届けなくてはならず、たった一人置いて行かれる孤独さは想像を絶します。夫婦になろうと言い寄るお殿様もイケメン達もみんな振り切り、自分に合った仕事に邁進していく姿が切ない...。ちなみに仲間達は皆、あずみの胸に抱かれる形で看取られてますよね。宮本武蔵が胸を「大きな誇り」と表した様に仲間達の死が彼女の胸に「誇り」を最期の息として吹き込んだからこそ終盤、生まれた村よりも「帰るとするか」と使命を選んだのも納得です。彼女の家とは地理的な場所でなく爺と仲間達のいた村で、彼らは今もあずみの胸に生きています。つまり使命を全うする事が誇りであり、家でもあるのだと。そんな帰路で幕が下りたのはある意味ハッピーエンドではないでしょうか。