笑う吸血鬼
」のレビュー

笑う吸血鬼

丸尾末広

月と蝙蝠が見る、鮮血春色の世界

ネタバレ
2021年4月10日
このレビューはネタバレを含みます▼ 耿之助は偶然出会った百三十歳の駱駝女に見初められ、不本意にも吸血鬼に加えられると、人間性を失う代わりに頭の中に咲き乱れる快楽と恍惚感にのめり込んで血を求め、夜毎徘徊し出す。そんな彼の同級生・性に激しい嫌悪感を抱く留奈と放火や残虐な夢想でしか満たされない外男など、たとえ吸血鬼という拠り所があっても、生が乾いて仕方のない生き物達を描いた大作。吸血鬼モノが多くある中、日本独自の倒錯感と五感で狂っていく耽美的なグロテスクさは国内外問わず熱狂的なファンを持つ丸尾先生にしか成し得ない世界観で唯一無二。現代とは思えないほど戦後色が強いのも先生らしい。ゆえにジャニーズ系と言われましても。また14才という設定はエヴァやポーの一族でもお馴染み、神秘的に絶妙な年頃で、大人と子供の狭間は現実と夢想の境目とも言えます。ちなみに本作の吸血鬼にニンニクや十字架は無効で日光のみが命取り、瞬間移動めいた動きや壁を這うなど身体能力は人間以上。意外だったのは牙がなく、吸血する際は刃物を用いるところ。全編、血と精の液にまみれてるものの、エログロだけで片付けたくない美しさがあります。人間じゃなくなる快感。他の生物にもなりきれない虚無感。紙面から伝わる肌の凍てついた感じがゾクッとします。特に月と蝙蝠にちなんだ名前の留奈と耿之助の妖艶さは異常。何かと留奈、留奈と気にかける耿之助が可愛い。確かに初めから彼だけが下の名で呼び、瀕死の彼女を見殺しにせず、血を分け与えた後も度々ちゅっちゅしちゃうので、前から愛し求めてたと見受けられます。そりゃピエロも惨殺されるわ。そのせいなのか、作中で幾度も描かれたセッ久より二人のくちづけの方がひどく官能的。真っ赤な血の糸で繋がる二人を終始、万華鏡を覗く様に月の穴から垣間見ていたい。そうです、あれは衛星ではありません。読者の覗き穴です。序盤で二人が被ってた覆面の様に内側と外側どちらが外の世界なのか、どちらが異端者か。彼らからすれば周囲の人間達の方がよっぽど異質な化物に見えた事でしょう。人間はどこまでも理不尽で残酷、醜くて狂気的。それでも生きていかなきゃいけない理由が分かる様で分からない。個人的に続編ハライソは蛇足。新キャラ達の魅力が乏しい事、不死だけど不老じゃないのも腑に落ちない事、そして何より耿之助の髪型が変すぎる。外男風に言えば、なんという幻滅!下巻は星4つ、上巻は星5つです。
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