ぺン先にシロップ
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ぺン先にシロップ

七尾美緒

それが君と僕の恋だ

2021年5月14日
書店で本書を目にした当時、宣伝に力を入れて貰っている先生と感じ、そのまま全巻5巻購入、実は後悔した。
主人公が仕事が出来る出来ないレベルを遥かに超越、一人の社会人としてどうよ、という域にある。その強調の仕方がどうもあさっての方向の気がして、七尾先生の感覚に私はついていけないものを感じた。
そして描線が細くて、コマの枠線の存在に負けていて(巻重ねる内にメリハリ)。イケメン設定の伊吹がそう見えないし、仙川も微妙、主人公桐島は可愛いキャラでない。絵、特に人物に美が今一つ。
桐島の、作家に寄り添う姿勢と、手放しで応援する心持ち、もし自分が作家ならさぞ嬉しいものだろう。我慢ならないような仕事の失敗もやらかす主人公、出来る伊吹は編集者の力量に頼る必要が無いから、実験のような恋愛ごっこに彼女がうってつけと、恋愛「対象」とした。他作家とのやり取りに、判断力が働いたのだ。面倒事には距離を置いている人間だった伊吹にとり、彼女のもたらす面倒事は迷惑だったが、次第に自発的に関わりに行くような事になる。
遂には、最も根深くて厄介な主人公の問題を、彼女に関わらせること無く彼女の為に首を突っ込んで片付けてしまうのだ。
真反対にして同根の歪な家に育った二人。
愛ゆえに取った行動、ということが明らかなだけに、その才能豊かな若き作家の大変貌を、読み手としては振り返り感じ入ってしまう。
ストーリー中の他の作家達のクセもアクも強すぎて、対照的にヘラヘラ過ごすかのような主人公の受け身の姿勢に、また、打たれ強いかのような主人公の、何でも自責点にして収めてしまうような彼女の考え方に、忸怩たる思いを何度も抱かされる。恐らく作者の狙いなのだろう。苛々させられ、どうしてそんな風にやり過ごすの?、どうしてそこまで引き受けているの?、出来るからやっているのでもないのに、と、ずっと疑問が晴れず、晴れないどころか、段々とストレスが積み上がっていく。過去の場面が断片的に差し挟まれていく。暗黒部分が彼女を形成したとの理解が進む。仙川さんは、偶然の同僚なのだろうか。説明無し。

物凄く重苦しくて、胸がつぶれる辛い描写が、主人公のドジぶりに負けずにある。まるで相殺したいように。
序盤から彼女の使えなさっぷりに呆れ、付き合い切れず、そこでもう多くの読み手は中途離脱してしまうだろう。読者に阿っていないから。
3.5-6で4星。(娘は高評価した。)
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