いろはにこんぺいと
」のレビュー

いろはにこんぺいと

くらもちふさこ

コマ割りがアートに見える 生き生き感じる

2021年5月19日
ファンは浸れる空間。濃いコミュニティで兄妹の様な幼馴染。異性的な意識にはギャップがあり、お互いよく知り過ぎていて、恨み事や黒歴史なんかもあったりして、向き合うことなくお年頃年代に突入した。主人公チャコの友だちの遼子が、その幼馴染、達を好きだという。協力する流れ。達は要所要所で、貴方それはチャコのこと好きでしょう、という場面作りながらも、なかなかチャコには見えない。
ずっと達を想ってきたからこそのチャコの突っかかりが、むなしい。

ただ、素直でなさ過ぎる。気持ちは大いに判るけれど、意地っ張りさんの場合、それはひねくれにも見える。
だからこそ本心が見えない達は、「じぶんの気持ちを/そのまま/ぶちまけてくれた/チャコのほうが/好きだな」と。
そこまで言わせるチャコに対し私は余り理解者になれない。
「遼子さんに失礼なんじゃないの?」の言に同感の私。

くらもち先生は本質を突いた言葉を達に言わせた。そのメッセージは、友の恋路の手伝いをする陰でうじうじするチャコに向けるも、本音でぶつかれとチャコをけしかける形で、読み手のほうの背中を押すかのよう。表面では他人を応援、実際には本心をぶつけることを恐れる主人公。憎まれ口を叩くことで、穏やかでなくともせめてもの接触の機会を確保してきた。高橋くんや遼子さんの間で身動きの取れない状況は、悪者になることの回避への非難とも受け取れると書いたら、拡大解釈過ぎになるだろうか。しかし、「だれも傷つかないですむんならおれだって悩まないんだよ!」は主旨の一つに。

先生はセンスに溢れたおしゃれな絵柄、これまで華やかさや巧みな白黒コントラストの効いた格好いいマンガが多かったが、本作は下りてきた感がある。それでいて、やはりどの絵もやはりセンスがある。コマがいい。
説明口調で理屈っぽくなどしないビジュアルと人物の発する言葉でストーリーが鮮やかに展開する。それは台詞だけでも転がっていく、小気味よいスピード感や、伝え方の生き生きした言葉遣いがもたらす驚異的なわかりやすさ。くるくる変わる場面や次々起こる出来事がぶつ切れ感な二人の歩み寄りを見せていく。

新境地っぽい作風だが、アパートの狭い人間関係の雰囲気がとてもよく出ていて、これもくらもちワールドか、と再認識してしまう。1982年。

ただ、ドーナツ作りは油が心配なやり方をしていたし、事故や病が多すぎる気はしてしまう。
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