エメラルドの愛人
」のレビュー

エメラルドの愛人

リン・グレアム/細郷妙子

庭に置かれる小人の姿をした地の神のモデル

2021年6月3日
ラファエルの容姿、周囲の状況、心境の各描写もよくわかる。仕事のトラブルに追い打ちをかける、婚約者ルークと妹の、主人公を嘲笑う会話内容を立ち聞きするタイミングの衝撃、裏切りを目撃してしまうその残酷さ。

どん底からの人生成功ストーリーは構造自体は快いはずだが、転回部、失意の主人公を救い出した彼ラファエルとの一連の出来事を否定する形の暗転。
ハピエン読物との確信から、基本、そうはいってもそうはならないはずよね、と当方は疑って読みがち。主人公の悲嘆を自己投影させて読むには、それ迄に記述されてきた、エバとの母娘関係のイメージではどうも半信半疑が強く、インパクト弱い。ボイスの働きかけに対する母エバの動きも、合理的反応に思えなかった。弟クンの行動には流れがあるけれども。
グスタフのキャラ、ウイルのキャラ、ストーリー上に立てられているものの、どうもシーラやロバートより紙幅割かれながら役が軽い印象が、収まりの悪さを覚えてしまう。

「男としての困惑」「共同経営者として理不尽な要求」「たぎるような沈黙」「感情欠陥なんかじゃない」「だた感じてほしい(ただ、の誤記か)」「めったに見られない美徳」「(チワワを持ち上げた時)なんなの、それ?」「ルークが割り込んで姉妹の絆が断ち切られちゃった」「ラファエルが上半身を起こし」等々納得いかない箇所有り。
ラファエルの言葉「第三者の目で見てごらん。ふつうの男だろう。神話の王子さまでもなんでもない」は、まだその頃は難しかったろうと察する(傷心の渦中には響かないが、後日実感する言葉)が、焚き火場面の二人の飾り気ないやり取りは良かった。「ほら、もう過去形で言っている」はこういう時こそ力があると感じた。
乗り越えてきたつもりでもサクッと割り切れず、結婚式話に動揺という流れ、長いと言いきれない経過時間であり理解出来る。「君を見ている」は酔える。失恋直後の隙間の好機。自信家であり押しがあり、ラファエルという男性の程を示すし、このタイミング故平凡だけれどストレートな表現が巧みに差し込まれた。「あなたはキスの名人ね」も、間接的に彼ラファエルの素晴らしさを表す言葉の挟み込み、作者の畳み掛けが抜け目ない。
「もうひとつのほうは?」と尋ねるのは、読者としては既に親切な訳語のルビで意味が先行して伝わっている為、主人公のタイミングで共感出来なかった。真ん中部分多少引き延ばし臭い。
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