虜囚麗人
」のレビュー

虜囚麗人

水上シン

描線1本1本、くらりとするほど煽情的

2021年6月12日
しなやかな肢体に少年の面差し。多勢に無勢でも立ち向かう闘志や誇り高さとは裏腹に、屈辱的な拷問に苦鳴を放ち身をしならせるヤマモト中尉の姿に、アービング大佐ら敵将だけでなく部下のタカムラもが心を奪われ劣情をかきたてられたのは、無理もない…としか言えない。
時々「そそられる色気」「色気がダダ漏れ」という表現を他作者の作品レビューで見かけても、作中キャラ達のセリフでそう書かれているとそんな気にさせられちゃうよね…と思う場合も多い。が、水上作品では描線のケタ違いの説得力がこちらの全てのシニカルな何かを、凌駕してしまう。体で快感を得てしまった悔しさにヤマモトが噛みしめる唇、寄せられた眉と赤らんだ目元、あふれ出る二筋の涙に至るまで、なんと饒舌なことか!
読み返すたび、季節がめぐるシーンのところで、ふいに涙が出そうになる。深まる心情がひたひたと胸に迫るのだ。誰が誰のどんな虜囚なのか。目でなぞるようにゆっくりと味わってみてはと、そっと勧めたくなる一品。
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