このレビューはネタバレを含みます▼
BL読者ならかつて誰もが知っていたタイトル。初出が1993年、最終話完結は2002年と長期・不定期に発表された物語ですが、人間性と愛と再生というテーマは普遍的で、いっそ現代的です。
ただ…(どんな小説やコミックも大なり小なりそうですが) この作品は著しく読み手を選びます。心配な方は試しにチェックしてみてください。
(0)健康面、特に心臓や血圧は安定していますか?(人によっては衝撃的に感じる展開もあります)
(1)BLに女性が(軽く)出てきても大丈夫ですか?
(2)いわゆるリバが平気ですか?
(3)CPが他の人としても平気ですか?(累計複数でも?)
(4)薬物の使用経験がある登場人物を許せますか?
(5)近親者による児童や未成年への虐 待(性的含む)を正視できますか?
(6)あなたは、心が弱く過ちを犯す(繰り返す)人間に寛容であれますか?
(7)あなた自身も不完全で矛盾に満ちた存在の一人であると思えますか?
このどれか1つでもNGがあると、読んでいる途中で不安や不快感を覚え、うっかり作品に対して腹を立てて☆を減らしたくなってしまうかも知れません。そんな時はエピソードの細部から眼をそらし、作品の伝えたいテーマやメッセージに集中してみるといいのでは…と思います。
連載当時、私は上記のうち2つの項目でつまずき、自分がどんな人間かを思い知って心に大打撃を受け完読できませんでした。
作品は、読み手をそのまま映す鏡だと初めて知った瞬間でした。
年月を経て、自分にも他人にも理想と完璧さを求めすぎる狭量なところを少しずつ克服し、自分と他人の失敗や心の弱さも少しずつ受け入れられるようになった今、やっと読み終えることができ、この物語を心から人に勧めたいと思いました。
言葉で語られない相手の心情を人は正しく知りうるだろうか。言葉とは裏腹な心情など人は正しく知りえるものだろうか。
鳥人(とりびと)ヒロミ先生が描く彼らの、じっと見つめる眼差しは、そんな彼らの心の機微--おもてからは捉えにくい微妙な心のおもむきやナイーブさそのものが瞳という形になったかのような、不思議な雄弁さに満ちています。
「ここに帰ってきたいんだ」
この言葉を発するまでの、耳にするまでの、彼らの長き年月と激動、葛藤。この言葉を目にするたび、嗚咽がこみ上げます。