彼が眼鏡を外すとき
」のレビュー

彼が眼鏡を外すとき

麻生ミツ晃

15歳の告白と17歳の秘めた想い

ネタバレ
2021年7月27日
このレビューはネタバレを含みます▼ 「リバース」がとても好きで、ゆっくりとですが作者さんの作品を読み進めています。未読が少なくなってきて、一抹の寂しさ…。
表紙をめくると、表題作とは異なるタイトルのお話が始まります。もくじを見て、「ああ、表題作の前に別の短編があるのね」くらいの気持ちで読み進め、さらりと読んでしまいました。
そして、表題作のはじまり。冒頭で、「え?ちょっと待って、それ誰?土屋は?え?え?」となりました。…ほんと作者さんの構成は、毎度すごいなって思います。ドキドキさせられます(ときめきのドキドキとはちょっと違くて)。
話が前後してしまいますが、さらりと読んでしまったはずの一太と土屋のお話。読み返してみると、「あ、ここで気持ちを自覚したんだな」とか「ああ、好き故の戸惑いなんだな」とか、読み取れていなかった感情の機微が見えてきました。「分かりにくいな」と感じていたのは、私が見落としていただけ。多分、そういうことは日常の生活でもあり得ることで、言葉にしなくても滲み出ている気持ちの存在に気付くかどうかは、こちら次第かもしれないなと思いました。見えすぎると、巴みたいにしんどくなったりもするのでしょうけれど…。
話を戻して、表題作は、1・2話主人公一太の弟賢次と一太の親友巴のお話です。自分の「好き」の気持ちを一途に貫きながらも、その気持ちよりもはるかに大きく感じる賢次の巴への健気な想いが切なすぎます。巴を追いかけて震えるほどの気持ちで必死に伝えた言葉、飾らないありのままの告白に胸が締め付けられました。真っすぐなひたむきな想いとアルバムを持って巴の元へ行った賢次が、それだけ巴を求めていながら、一度ためらってから袖を握りしめる場面が、もうたまりません。うぅぅ…こういう一拍置く描写ってすごく残る…。そして、最終話でわかるタイトルの意味と巴の気付きと決意に泣けました。書下ろし含めて、本当に良かったです。芹沢兄弟の設定も妄想が膨らんで楽しかったです。
蛇足ですが、修学旅行エピで、手を振られた相手が自分じゃなかったとか、お土産のこととか、ものすごく心が苦しくなったのです。こういうことって、現実にあることで、何て言うか、そういう心の片隅にあるようなことを突いてくるな…と思いました。改めて好きな作者さんです。
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