犬も喰わない
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犬も喰わない

彩景でりこ

ところで山代教授はバツいくつなんだろう?

ネタバレ
2021年8月13日
このレビューはネタバレを含みます▼ ※ 表題作とその番外編についてのレビューです。長文です※
まだBLを読み始めたばかりの頃に、読むべきBLとブログで勧められていたのがきっかけで読み、これまでに読んだことのない複雑な人間関係の描写からBLの奥深さに興味を持ち、更にはまってしまった思い出の作品を再読。奥園と山代の特異な関係は、山代に憧れていた奥園が山代の鉛筆を拾ったことで高じていく。山代自身は憧憬の対象で直接肉体的接触をすることが憚られる余り、奥園は山代が触れたモノを代償として手に入れ、手放すことで間接的に山代に触れることを繰り返してきた。一方、山代は、奥園の想いと手口を知り、奥園の関心を惹きつけるために恋愛感情のない相手と関係し、奥園が奪うのを見て奥園の想いが自分に向けられているのを実感することを繰り返してきた。そんな関係を40年ほど続けた2人の関係に、奥園を10年前に好きになり忘れられなかった空木(うつぎ)が入り、山代と奥園の関係にケリがついて、奥園から告白を受けるまでになるのだけど。山代と奥園、どっちかというと、山代は終始2人の関係を主導し、深い関係に入り込まないことによって、奥園にとっては終生忘れられない想い人となることを選び、奥園との拗れた関係こそが自分にとっての恋愛だと受け入れている分、拗れ具合としては重いように思います。山代から見た奥園の描写での賞賛ぶりを見ると、山代が奥園に愛されることで自分の価値を見出してきたようにすら感じます。他方、奥園は山代との関係に区切りがついたら、自分の裏側まで知っている若い空木との関係を深めている分、山代への執着も落ち着いているような。番外編は甘々です。
本当に好きな相手には触ることもできない気持ちは分かるものの、拗れた関係を長きにわたって講じさせるとどうなるのかを描いてくれた、面白い作品だなぁと改めて思いました。でりこ先生の作品だと蟷螂の檻も、人間の仄暗い感情を描いていて好きなのですがまだ連載中でどんな結末を迎えるか分からなくて。完結していて、読んでズシッとくる作品を読みたいときは、この作品がおススメかと。この作品の学生時代の2人が美しいのも、仄暗さを引き立てて好きです。でりこ先生の描くおじさん達も色気があって好きです。
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