潮騒のふたり
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潮騒のふたり

遠浅よるべ

これぞ男同士の恋のリアル!

2021年9月11日
この作品からは音が聞こえる。体育館の生徒たちの歓声、夕暮れの踏切の警報音、ボンボン時計の振り子、祭囃子、打ち上げ花火。
この作品からは匂いもする。居酒屋の煙の染み込んだスーツ、乾いたグラウンドの土、主人を亡くした古い日本家屋、草むす庭、蚊取り線香、殺風景なアパートの一室。
そして、昭和の体躯の男同士が互いを求める息遣い、滴る汗、体臭。
くゆらす煙草、ラジカセから流れる佐野元春。海岸線を走る列車の音、遠い潮騒。
背景に黒を多用し、青年漫画を思わせる骨太な描写。1994年を知る読者に感じさせる、昭和を色濃く残したノスタルジー。 発車ベルと駅の人混みの中、最後のシーンに息を飲んだのは私だけではないだろう。
私にとって、この作品は夏の終わりに思い出す一冊。 ロケハン、キャスティング、脚本、演出をデビュー作にして一人監督をこなした遠浅よるべ先生に、心からのスタンディングオベーションを贈ります。
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