大好きな妻だった
」のレビュー

大好きな妻だった

武田登竜門

誰もが逢う、永遠の別れ

ネタバレ
2021年10月17日
このレビューはネタバレを含みます▼ 短編で心を揺さぶられる話は、だいたいが人の生き死にに関わるものだ。
ありがちな話だし、愛をテーマにしているのも常套手段だと思う。
だけどこの作者様、読者を引っ張るチカラが大きいんだよなぁ。
何がだろう?と思って3回読んでみた。(もちろん3回とも泣いた。いったん涙止めてからだよ?でも泣いてしまった)

余命宣告を受けた後、夫は生活と会社と金銭という現実的な事に向き合わねばならず、妻に対しては今まで幸せにしてもらったからとの義務感が勝っている。
もちろん悲しくて動揺もしているだろう。だから妻の真意に気づけない。
対して妻は、もう夫への愛しか残っていない。けれどやはり動揺しているから、自分がいなくなった後の夫の気持ちまでは推し量ることができない。

妻が本当に最後まで騙すつもりなら、たとえ親友にだって真意は明かさなかったと思う。
本当は怖くて寂しくてつらくて解って欲しいけれど、「夫の為に嘘をつく」事を盲目的に支えに半年をやり過ごしていたのではないか?

最後まで外さなかった結婚指輪。
慟哭の嘘の付きあいでしか伝えられなかった思い。
永遠に別れる前に、解り合えて本当に良かった。
悔いの残らないお別れで、本当に、本当に良かった。
私は肉親に残される方の痛みしか知らないけれど、(当たり前ではありますが) 残された方は何年経っても忘れないのだ。
共にいた日々が、ついさっきのように感じたりするものなのだ。
夫がこの後、新しい出会いを受け入れ生きていくとしても、先に逝った愛していた人と、生涯いっしょに生きていくのだ。
人を愛するってそういうものだと思う。
このお話は、短いながらもちゃんと愛の何たるかを表現しているので感動を得るのだと思う。

夫が遺影にあの写真を選んだわけは、推測するに2人の間の愛情が最も大きかった瞬間だからなのではないか?
他の人に理解してもらわなくてもいい。
愛する人の遺影は一番愛おしく思えた時間を選びたいと思う。

このお話に出会わせて下さったフォロワー様に感謝を。
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