みのりの森
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みのりの森

まりぱか

残された2人の再生物語

ネタバレ
2021年11月1日
このレビューはネタバレを含みます▼ 1人の男の死によって出会った2人が、心の隙間を埋め合い、再生していく物語。
号泣ではなかったけれど、彼らの感情が溢れる場面で何度も涙が浮かんできました。大切な人の死が衝撃で、じわじわと心を蝕んでいくような悲しみに耐えきれず、お互い縋るように相手を掴んでしまうその心情がひしひしと伝わってきました。派手さはないけれど、心の機微が丁寧に描かれた作品でとても良かったと思います。後悔や遣る瀬無さなど言葉にできない思いが静かに深く胸に迫ってきました。

実と慎太郎の関係や実が何をするためにやって来たのかは、予想してなかったので真相に驚いたし、思っていたよりも複雑なものが絡んでいて読み応えありました。最初は掴みどころなくふわふわした印象だった実の後悔が徐々に明かされていく展開はとても面白かったです。
実には辛いことになりましたが、慎太郎に出会ったことによって、実が人生を仕切り直すことができたのは本当に良かったと思います。

慎太郎の死に関しては、きっと生きることに違和感がある人だったのだろう合わない人だったのだろうと感じたのですんなり受け入れられました。死の理由とは必ずしも誰もが納得するものではなく、ほんの少しのズレで簡単になくなってしまうこともあるというのがリアルだなと思いました。母親が我が子にそういう危うさがあることに気付いていたというのも同じくで、母ならそうかもしれないと思い、すごい描写だなと思いました。母がわかってくれていたということは慎太郎にとっては救いでもあったかなと思いました。

2人の人生はここまでが序章。本当の人生はここから始まるのだと思いました。2人はたくさんの思いを抱えて生きていくのだろうと思います。
作者さんにはここから先を、新たに生き始める2人を描いていただきたいなと思いました。
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