雪の下のクオリア
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雪の下のクオリア

紀伊カンナ

雪どけが待ち遠しくなる物語

ネタバレ
2021年11月13日
このレビューはネタバレを含みます▼ ★草木が好き、人間は嫌いな大学生の明夫と不特定の相手と一夜限りの関係を繰り返す大橋の先輩後輩ストーリー。

★学生寮の廊下で倒れていた大橋に手を貸して懐かれた明夫。節操のない大橋にイラつくのは、大嫌いな父親と同じだから。寝られれば、優しければ、誰だっていいのか?あいつにとって優しさって一体何なんだよ…さらに腹立たしさを覚える明夫は…。

★「クオリア」って何だろう?と思って調べてみたら、概念が確立されていない曖昧さが分かっただけでした。人の気持ちの曖昧さ、不確かさ、この作品の登場人物たちの内面にぴったりな印象です。嫌いな父親と同じ銘柄の煙草を吸っている明夫、先生とのセ/ックスのことを話したくない大橋、2人が求めていることは同じだったんだな、と、淡々と暮らしてきた明夫、飄々と生きてきたように見えた大橋の内側を知って、とても切なくなりました。父親が帰ってこないと完全に諦めたのはいつだったのだろう…、その悲しさと背中の温もりの両方を大橋に伝える明夫の温かさがとても好きです。泣きそうになりました。思えば明夫はずっと優しかったですね。

★表題作のみ228ページ。表紙の描き込みに驚きました。漫画の表紙でこの背景はすごいなぁと。中もそれは丁寧に描かれていて、皆様書かれているようにアニメーションのよう。あとがきの「箱庭」を目にして、ぼんやりとしていた「クオリア」に輪郭ができました。

★それぞれの弟思いのお姉さんたちが素敵でした。「薔薇」には笑ってしまいました。さすが、明夫のお姉ちゃん笑。
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