インディゴ・ブルー
」のレビュー

インディゴ・ブルー

やまじえびね

自問の過程で生じるものを描いた物語

ネタバレ
2021年11月14日
このレビューはネタバレを含みます▼ ★小説家・ルツと美術雑誌編集者・環とルツの担当研修者・龍二の大人のストーリー。

★「恋人と愛し合えば愛し合うほど、彼と自分の両方を裏切っていると感じる女」を小説の題材にしたルツ。これは私の話じゃない、大丈夫私はうまくきりぬける…とルツはそう思っていた…。

★ルツは“うそつき”なのかな?「そんなことないよ」と彼女の肩をそっと抱いてあげたい。「誰にだってあることよ」と。けれど、彼女に必要なのは慰めではなかったことが分かります。必要なのは、彼女を愛した人たちの「嫌いになった」「最低な人間だ」という、誠実な言葉だったんだな、と、辛いなと思いながらそう思いました。そして、そこにプラスされる伝さんの大人の男としての視点。これは、本当にセンシティブなことだな、と思いました。「自分が何者かわからない」という感覚を持つ人は少なくないと思います。わからないと分かっていても、人は“何者”かになりたくて、“答え”を見付けたくて、考え、悩み、人と交わることをやめることができないのかな、と思います。それでも、名付けられないこと、型にはめられないことがあって、それは、恋愛に限らず、アイデンティティや自分と他者との関係性においても同じですよね。作者様が仰る「自問の過程で生じてくるもの」が、ルツと環の関係であり、龍二の「ありがとう」なのだなぁと思うと、胸がいっぱいになります。3人それぞれの気持ちにそっと触れることができたことは、私にとって幸運でした。ルツがどれだけの時間を費やしてもきっと忘れることはできないんじゃないかな…と思うこの物語を、私は時間と記憶に抗っていつまでも忘れないでいたいなと思っています。

★表題作のみ202ページ。あとがきがとても印象深く心に残っています。

★これが「大人の話」なのだなと、私の中の基盤となったように思います。レビューのご縁に感謝です。
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