渾名をくれ
」のレビュー

渾名をくれ

新井煮干し子

純粋で尊い初恋の話…だと思いました。

ネタバレ
2021年11月17日
このレビューはネタバレを含みます▼ ★有名イラストレーター・天羽×人気モデル・ジョゼの同級生ストーリー。

★中学の同級生天羽とジョゼは高校卒業後、上京を機に同居を始める。2人の生活にジョゼの後輩モデル・剣が入り込んできた。それは、ジョゼが望んだこと。天羽はジョゼが望むことはすべて受け入れる。天羽にとってジョゼは同じ人間ではなく、神だった…。

★シンプルに読むと、「信仰」をカムフラージュにした、純粋で臆病な男の恋だな、と思いました。天羽は自分の気持ちを「初恋」となぞらえた日もありました。でも、自分の恋心を認めてしまうのが怖かったのかな…。ジョゼを絶対的他者として崇拝することで、失う怖さや裏切られる不安から逃れようとしたのかもしれません。ジョゼを「神」と信じること自体が、彼にとっては救いだったのでしょう。この作品で面白いなと思ったのは、二段落ちです。ジョゼは自分の外見の美しさが信仰の対象だと捉え、醜い自分では天羽の「神」でいられないと取り乱します。けれど、天羽にとっては外見の美しさだけでなく、ジョゼの存在自体が尊いものになっていました。そこで、決着がつけば良かったのですが、やはり、天羽には「信仰」以外の気持ちがあったのですね。彼は、ジョゼが目の前で男と寝るまでは(たっているのを見るまでは)、自分と交わるまでは、自分の絵を晒していました。彼がジョゼに見せられない絵を再び描くようになったのは、きっとこのときからでしょう。彼の「信仰」はここで形を変えたのだと思います。その絵を見せることは、どんなにジョゼに請われてもできない…かもしれない。まだ彼は臆病なままです。けれど、最終ページでリビングに置かれた絵を見て、天羽のジョゼに対する愛があまりにも尊いなと思いました。そして、そんな天羽のすべてを受け入れるジョゼもまた尊い。ジョゼはずっと天羽のための「ジョゼ」でした。人を愛することは、尊く、美しいな、と思いました。

★表題作のみ192ページ。独特のセリフ回しと絵で表される世界で、新しいものに触れた感動がありました。

★あとがきにある「信仰」についての作者様の考えに頷きました。レビューのご縁に感謝です。
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