雪原の月影
」のレビュー

雪原の月影

月夜/稲荷家房之介

独創的で壮大な極上ファンタジー

ネタバレ
2022年1月8日
このレビューはネタバレを含みます▼ 心から読んで良かったと思える極上のファンタジーです。
エルンストの抱える背景や各種族の特徴などが非常に独創的で面白い。過酷な状況に置かれながらも聡明さと強い意志でそれを乗り越え、自分自身で運命を切り開いていく壮大な一代記となっています。
BLと思って読むと最初あれ?と感じるかもしれませんが、確かな愛はあるし、緻密な心理描写と多彩な登場人物にどんどん引き込まれていくのではと思います。

語り口は淡々としていて、どちらかと言うと静の物語です。しかしエルンストの覚悟と決意を秘めた静かな言葉がどれも突き刺さり胸に迫ってきて、最後まで目が離せません。貧しく希望もない領地メイセンをエルンストがどのように変えていくのかが気になって、ページをめくる手が止まりませんでした。

世界観が素晴らしく、ファンタジーとしてだけでも充分楽しめるのですが、時折挟まれる2人の愛の交歓は、時に厳しいエルンストの道行きの中の癒しタイムとして楽しんでました。
ガンチェの安定感がとにかくすごい。頑丈な体躯、深い懐、ひたすらエルンストだけを見つめ守るブレない愛。様々な苦難に直面してもガンチェがいれば大丈夫と思える。最初は物語の序盤であっさりくっついてしまったなぁと思ったのですが、エルンストが過酷な道を突き進むにはガンチェの存在が不可欠だったのだなと思いました。
この物語はすれ違いや思い込みなどの切なさが皆無なので所謂BL的な盛り上がりを求めているともしかすると退屈に感じてしまうかもしれませんが、自分はどこまでも深く想い合う2人の愛にものすごく満たされました。
読みながらこの世界にいつまでも浸っていたい、ずっと読んでいたいと思っていました。それほど心地良く読み飽きないお話でした。終章は涙なしでは読めませんが、最後にはとても心安らかで温かな気持ちが残りました。幸せな余韻に非常に満足です。
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