彼方から
」のレビュー

彼方から

ひかわきょうこ

多分ずっと読み継がれる漫画

ネタバレ
2022年1月24日
このレビューはネタバレを含みます▼ 大学生の頃に友達から借りて徹夜で一気読みした事を思い出した。何か知らんがイザークに凄い感情移入しながら読んだ記憶がある。デタラメに強くて超人的な身体能力を持つイザークなんだが、反面、心はめちゃくちゃ繊細でナイーブで優しくて、強いからって闘う事が好きなわけでもないし、自分の強さに存在価値を見出してるわけでもない。超人的な身体能力と超常能力、それに反して今にも壊れそうな心。意図的に囚われた牢屋の中で、主人公の事を想い一人で泣く構図がすごい。何かもう本当一回読んで欲しい。
さあ。その対比として描かれるのがケイモス。イザークとは対極的に、残忍非道でおよそ人の心というものがない。寸分の迷いなく悪に振り切れているキャラクター。強さにこそ自分の存在価値を見出し、圧倒的な力を持って他者を蹂躙する己の強さに歪んだ悦びを感じる性格が故、一度敗れたイザークに異常に執着し徹底して交戦する。自分を負かしたイザークを圧倒する為、最後は人ですら無くなるケイモスだが、イザークみたいな人間的な心の迷いや揺らぎがない分、飛躍的な突き抜け方をしたのは当然といえば当然か。当作は少女漫画というカテゴリーだが、こうした現象は実社会にも通じる点があり、漫画だからと適当に誤魔化して濁さず、きっちり描き切る作者の鋭さが感じられた。何かまああと、色んなキャラが出てくるんだが、脇役が案外名言を発しているのも印象深い。失脚した大公(だっけ?)だかが言った「うまく行かなくてイライラしてた時、私は世界を自分の小さな物差しで測ろうとしていただけだった」みたいな事言ってたり。あと、ラチェフとかね。死んだ彼の側にゴーリヤの魂が寄り添うシーンとかね。チモとか翼竜とか巨大なキモい虫とか、なんか色々壮大な世界観だったな。
作品的には昔風なイラストだが、人物の描写やアクションシーンやモーションカット、疾走感や躍動感の表現が本当に素晴らしい。顔や体をあらゆる角度から描写している作品だが、視覚的な違和感や狂いを感じさせないのは凄い。『少女漫画家=綺麗なのは決まったアングルの顔だけ。全身描かせたらデッサンおかしい。アクション描写なんてまるでダメ』という個人的な偏見を完全に覆した作品。
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