地下鉄の犬
」のレビュー

地下鉄の犬

草間さかえ

あー好き。もー好き。ちょー好き。

ネタバレ
2022年3月12日
このレビューはネタバレを含みます▼ もぉ、なんでしょ。どうしても惹かれてしまう世界観。不思議な魅力がありますね。草間先生の織り成す物語の味わい深さが、じわじわ~って心に染みてくるんです。ページを開けば、そこはもう草間ワールドに迷い込んでしまいます。先へ先へと進めながらワクワクが増して行くような高揚感があります。好きだなぁ。
決して派手さはなく、穏やかでありながら情緒豊かで、心の機微を描くのがお上手です。

色んな事を失って、心に隙間が空いてしまったようなリーマン篠田。コーヒーの匂いに誘われて、ふらっと導かれた煙草屋兼骨董品屋。こういう描写に趣がありますね。柔和な店主・朝倉との出会いから、心の隙間を埋められて、変わって行く感情が丁寧に綴られて行きます。
篠田が大切に思う人を大切にしてるつもりで出来てなくて、実際ホントに不器用な人だと思います。地下鉄のホームを当て所なくさ迷う野良犬のように、篠田もまた心の行き場を探して彷徨うようで、犬を重ね合わせたのも上手いなぁ。
拠り所を見つけたものの、深く踏み込めないもどかしさよ…
朝倉の方は、惹かれて行くのが目に見えてわかるけど、彼もまた一歩踏み出せずにもどかしい。
壊れた骨董品の修復と、人間関係を重ね合わせて見せるのもまた素晴らしいと思います。ヒビが入っても、人はまた元に戻せる。篠田が唯一取り戻したい関係。不器用なりに出した答えが良かったねとしみじみ思う。
朝倉の健気さを可愛く感じる篠田ですが、その『可愛い』は紛れもなく『愛しい』なのですよ。素敵ですよねぇ。
二人の距離の縮め方も素敵で、今作品は『犬』の使い方が絶妙です。上手すぎて、思わず唸る私。『外村探偵社…』でも思ったんですよ、渋いわ。

晴れて恋人となってからのエピソードが、めっちゃ好きで心をくすぐるんです。小さなハートの矢がトスッ、トスッ、と胸に刺さる。うぅ~やられた。おかずの真ん中と端っこ。二人の関係の紹介。何気にしてる指輪と転居届。キュンとしてニマニマしちゃうのよぉ。
温泉地での浴衣でエチも、和室の薄明かりの中でえっちだし、ちょっとがっつく朝倉にドキッ。

まだお互い不器用だったりするけれど、ゆっくり育んでる二人が大好きです。
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