このレビューはネタバレを含みます▼
「空気は読むものじゃなくて吸って吐くものだ」という強烈に印象に残り、共感を呼ぶフレーズとともに始まったお暇生活の序盤は、凪が都会の人に合わせない生活を手にしていく物語かと思いきや、この漫画はその先が面白かったです。
描きようによっては、「都会で頑張ってた女の子が自分にはもっと違う生活が合うと気づき、自分らしい生き方を選ぶことにしました、めでたしめでたし♪」で終わらせることもできるのに、この物語はふわっとした絵柄ながらもっと現実のしんどさを丁寧に感じさせるエグ味があり、それがとても面白いと思いました。
28歳にしてようやく気づいたと凪は思っていたようだけれど、長い人生で見れば28歳なんてまだまだ若く、人生はその先も続いていくと思うとそこで一度リセットしただけでは綺麗に終われない。むしろそこからどうするのかというのをじっくり広げていくという課題、そして凪個人だけの問題ではなく母、祖母の代から呪いのように続いている「空気を読む癖」や「ちょっと浮世離れした人に惹かれてしまう」男性の趣味など、読み進めていけばいくほどせっかくリセットしたはずの生き方が、前と違うとは言っても本質的には結局一緒の方向に戻りつつあるのではないか?という不安を抱かせる展開に目が離せません。
慎二も、陰では凪と別れて落ち込んでいたり、後輩に仕事で追い上げられたりと、凪は知らないけれど彼なりに苦労している場面も読者は見ているので、本音で話し合えば本当は凪と上手くいくんではないかと思ったりもするのですが、凪と付き合っていた当時の思い出を知るとやっぱりうーん、どうなんだろうと思い直したり、凪本人にやり直す気持ちが全くなさそうだったりして、結局読者としては何をゴールに、何を期待値にして読み進めればいいんだろうと本気で分からなくなってきました。
きっとどっちに行っても100点なんてなくて、自分にとって大事なことを選び取っていくしかないのではないかと思いますが、割と完璧主義者だった凪と慎二が最後に何かに折り合いをつけるのか、それとも更なる高みを目指すのか、その選択を最後まで見守りたい、そして読者に教えて欲しいと思います。