このレビューはネタバレを含みます▼
幼い頃から自分を抑えることで問題なく生きてきた渋谷君。しかし、愛花先生に出会い、人生で初めて恋をして、抑えきれない自分を体験します。抑圧されてきた自我は一部成長できておらず、渋谷君の幼い子供のような言動に周囲は驚きながらも温かい目で見守りながら彼への理解を深めていきます。
忙しい中でも、まだ気持ちに余裕のあるうちは良かったのですが、徐々に仕事や恋、家族の問題などが重なり、それでも自分を押さえつけることでしか問題を解決できない渋谷君は、物語の終盤遂に心が壊れてしまいました。最悪の事態に陥ったように見えましたが、そのおかげで彼は自分の抱える問題に気づくことができました。これからはそんな自分自身と向き合いながら、彼らしい人生を歩んでいけることでしょう。
愛花先生への告白シーンも圧巻でしたが、特に感動したのは31巻。渋谷君があんな事件を起こしたのに誰一人離れていくどころか、一緒に問題を解決していこうと寄り添ってくれる下り。人付き合いは下手だけど、誰に対しても誠実に向き合ってきた渋谷君だからこそだなあと思いました。それに、みんなどこまでも純粋で心優しい渋谷君が大好きなんですよね。
本当に良く練られたストーリーだなと思います。全てが繋がっていて無駄がない。つい何度も読み返してしまいます。物語の序盤は主人公だったはずの愛花先生ですが、彼女の存在も最後まで読むと腑に落ちます。彼女の構成要素の多くが渋谷君にピタリと合って、まるでパズルを組み立てるようです。そう思って読み直すと、余計キュンキュンしました。
蜜野先生の作品は初めてだったのですが、人物の表情に何とも言えない魅力を感じました。それに、些細な一コマやセリフ回しなんかも、狙って描けるようなものではなくて、心をグッとつかまれます。確かに24巻辺りから絵が崩れ始め、31巻に至っては「未完成原稿じゃないよね?!」とありえないことを考えもしましたが、そんなことは吹き飛ぶくらい31巻は感動の嵐だったので、もう万事OKです。
欲を言えばラストは、蜜野先生が描く3人(愛花先生と渋谷君と息子君)の最高の笑顔が見たかったです(*^^*)