怪獣になったゲイ
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怪獣になったゲイ

ミナモトカズキ

怪獣視点が刺さりますね…。

ネタバレ
2022年3月28日
このレビューはネタバレを含みます▼ ★怪獣になったDKと怪獣にした人たちの物語。(4/7までセールですよ)

★いじめの標的にされている安良城は、担任の黒田を支えに日々を耐えていた。そんなある日、大好きな黒田のゲイに対する気持ちを耳にし、絶望した安良城は「別の何かになりたい」と願う…。

★表紙が物語りますね。黒田は見えていない。成瀬は自分には関係ないとでもいうような冷めた目で見ている…。黒田みたいな人は割といると思いますし、自分が意識していない(できていない)事柄においては、私自身が「黒田みたいな人」になっていることもあるのだろうな、と思い返しました。そういう気付きをもらえ、考えるきっかけとなる良い本だと思います。それを踏まえた上で、個人的な感想を書きますと、安良城は黒田の偏見により心に相当な痛みを負いましたけれど、成瀬のいじめがなければ、黒田からのダメージも怪獣になるほどではなかったのでは?と思いました。安良城を追い詰めたのは、冷静な思考を奪ったのは、日々の成瀬のいじめでは?と。巨大化した安良城への成瀬の言葉は、身勝手な高校生の言葉と割り切るには、インパクトがあり過ぎました。いじめを人間の強さや弱さで語ること、自己肯定感の持ち方を自己責任のように述べてしまうことは、より一層の自己否定に繋がりかねないな、と思いました。アイデンティティの話だと理解した上で、アプローチの仕方が引っ掛かってしまいました。

★表題作のみ265ページ。自己のセクシュアリティによる体験や味わった気持ちなどを作品に生かしておられる作者様は少なくないと思います。ただ、セクシュアリティが同じでも、培われた価値観などは異なり、当然ながら作品には「個性」が現れますね。「怪獣」が胸に残ります。

☆変わるきっかけをもらった成瀬の未来が穏やかであることを願いますが、いじめたことへの葛藤を感じられなかったことが残念でした。
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