偽りのフレイヤ
」のレビュー

偽りのフレイヤ

石原ケイコ

まだまだ進境著しいワクワクのファンタジー

2022年4月3日
最新刊8巻まで読んだところでレビュー書きたくなりました。領土的野心を剥き出しにしてきて、平和だった近隣諸国に侵攻の挙げ句、恐怖政治で民衆を支配し生活を一変させた、武力自慢で大国になったシグルズ。主人公達の敵。彼らの身近な人はそれぞれシグルズの人間によって、容赦なく殺された。
敵は友好的な姿勢はなく、拡張の欲に取りつかれてる。主人公達の、守らねば、との意識強くなければ、やられるばっかりになりかねないのだ。物語は、始めのころ弱々しさのほうを強調されてきた主人公フレイヤが、国同士の戦いに一人の民衆としてではなく、巻き込まれて突如為政者サイドの座に就くことになり、徐々に役割を果たすことに目覚めていく、という話。「薔薇姫の目覚め」「ストレンジ ドラゴン」(+毎日無料連載部分の「花嫁と祓魔の騎士」)と短編中編を読んできて、本編はどうなっていくのか期待しながら追いかけてきている。戦争となれば小さな諍いごとレベルでない。暗殺、謀略、急襲、処刑と綺麗事では済まされない。憎悪や復讐心に目を背けられない。血も涙も無いルール無用のその戦いの中に、主人公フレイヤの少女らしい心と思考が潜み、フレイヤを取り巻く人間達の間で通わせる感情がある。戦いの場面、命のかかったエピソードだから当然重くやりきれないものがある。そこを逃げずに描いている。人種を分けずに設定されている。だから敵味方のニアミスも、そっちの世界なら起こりうる、として読めてしまう。
絵は屋外の空間的広がりや城内の雰囲気などそつなく感じ取らせて、確かな背景描写が読み手の私を物語世界に誘ってくれる。

「それでも世界は美しい」(椎名橙先生全25巻)と似ないよう祈る気持ちで8巻を読み終えた。

長編は終わらせ方に苦戦するのがほとんど。
決着までどこまで長くなるのか早めて(急に)設定されてしまうのか、編集さんの意向などわかるはずもないが、散りばめられたフレイヤ回りの伏線は綺麗に回収される計画的構成で進められることを期待。
本作は石原先生初の長編物として、他の中短編作品で見せてくれていたドラマ作りの才で、ダラッと話数稼ぎの脱線などせずに、見事にストーリーの縦軸の色を出して欲しい。
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