CANIS-THE SPEAKER- 【特典付き】
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CANIS-THE SPEAKER- 【特典付き】

ZAKK

極上のエンターテイメント作品に浸る愉悦

ネタバレ
2022年4月29日
このレビューはネタバレを含みます▼ 2冊読了した時点ですっかりこの作品世界に浸り魅了されてしまい、完成度の高さに感歎するしかなかった。

アメリカの孤児院の同室で育ったノブ、ハル、サム。賢明なサムが遊びで始めた警察ごっこがきっかけでノブの行方が分からなくなり、3人は引き離されるが、ハルとサムはノブを取り戻すことを祈念して力を蓄え大人になる。けれど、サムは自分のせいでノブを失ったと自分を責め続け、悪夢に苛まれて暮らしている。一方、ノブは、日本の裏社会で非力な子ども時代を経て知力で自分の武器を身につけ裏社会でのし上がっていき、多国語を操る企業内弁護士兼会計士として、サムと再会する…ここまでが2巻の冒頭で、それまでたっぷりと3人の子どもの愛らしさ、絶望、後悔、怒りの念が描かれ、世界観に惹き込まれた上で怒涛の展開に突入する。

自分には、3人が再会して交わる姿が、ノブにとっては奪われた魂の一部と虐/待によって乏しくなっていた、身体が自分のものだという感覚を取り戻すための必然的なものと思え、罪悪感に苛まれ続けたサムにとっても抱え続けた胸に開いた穴を埋めるために必要なことだったように思えた。サイレントで描かれたそのシーンは、3人の魂が交じり合い、充足されるための崇高な儀式のようで目が離せなかった。ベッドシーンでそんなことを感じたのは初めてだ。

それからは、非力な子ども時代に、大人から力づくで引き離され、魂の一部を失った3人が、それぞれ力を蓄えた大人として自分達を引き離した悪に対峙していく様が痛快だ。スリルに満ちた高揚感溢れるシーンが、魅力的な絵で描かれ、読み応え抜群。簡単な勧善懲悪ものではなく、3人が表の顔と裏の顔を使い分けてピンチを乗り越えていくのも、簡単に先を見通せず、続きを知りたくて堪らなくなる。
セリフが生身の人間から発せられているようなところ、色々なものを見過ぎて生気のない眼をしたノブがハルとサムのことになると眼に光が入る描写も心惹かれる。

完結前だけれども、素晴らしいエンターテイメント作品に出会え、浸ることができた喜びを、共有したいと思いレビューした。本当はこの素晴らしさをネタバレなしで伝えたいと思ったけれど、かなわなかった。できればBLという枠を取り払い多くの人に読んで欲しい。そう思った作品です。
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