25時のバカンス 市川春子作品集II
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25時のバカンス 市川春子作品集II

市川春子

異質な美しさと人間的感情

ネタバレ
2022年5月9日
このレビューはネタバレを含みます▼ 表題作の「25時のバカンス」。美しく優秀な研究者の姉と自由気ままな写真家の弟、どちらも人とは違うナニかがある。時々、ゾッとするほど美しい描写に、切なさと焦ったさが混在している。宝石の国の作者さんということもあって、作品の設定には、未知の生物や未知の世界線がたくさん出てくる。どれも美しいけれど、どこか不安定で、そしてそのアンバランスさが本当にクセになり、どんどん引き込まれていく。特に、表題作の夜の海での描写が、作者さん特有の筆致で、妖艶に、けれどどこか不安をかき立てるようで、その絵を眺めているだけでも、満足できるお気に入りの作品である。漫画だから、当然モノクロの世界なのに、ここまでゾクリとさせられる絵に、嘆息してしまう。そして、それだけではなく、このお話で描かれるのは、異質な世界線で繰り広げられるひどく人間的な感情で、そこがまた素晴らしい。一冊でとても読み応えがあり、読了後には深海でひっそりと息をしているようななんとも不思議な気分になる。静かな夜に読むことをオススメする。
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