よふかしのうた
」のレビュー

よふかしのうた

コトヤマ

本当に夜のように心地いい

2022年5月10日
照らすのではなく、そっと覆ってくれる。
ひっぱり上げるのではなく、ふわりとたゆたわせてくれる。
そんな、心を少し開放して休ませてくれるような作品です。私は不眠症になったことはないけれど、これを読んだ後は、なんだかいつもよりも心地よく眠れそうです。
この「少し」とか「なんだか」となるようなラインにとどまっているのが、また気楽でいいんですよね。「ものすごく」とか「とっても」とかだったら、きっと、すごいけれどすごすぎて、またなんとなく読み返そうかなあと気軽に思えるような本にはなっていなかっただろうと思います。けれど、この本はまるで、細かくてわずらわしいことをいちいち気にすることなく、「行きたいかも」という気持ちひとつでふらっと寄れるしずかな夜の街のようなのです。
昔ほどではないとはいえ、まだ「説教」「はげまし」「勇気」「希望」「自らを苦しめる一時的な努力」などのパワーが強すぎて逆に消耗してしまう要素を多分に含む物語が多いこの時代、ただ心地よい安息を提供してくれる(しかも、正解のように示したり受けとるべきもののように差し出したりすることなく、ただそこに置いておいてくれるだけ)というのはとても貴重でありがたいと思いました。
いいねしたユーザ4人
レビューをシェアしよう!