2055
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2055

三月えみ

SF読みの間隙を突く

ネタバレ
2022年5月17日
このレビューはネタバレを含みます▼ 皆さまのレビューに惹かれて読んでみました。
何度読み返しても泣きます。
近未来を舞台にしたアンドロイドもの。
通常短編にネタバレはしないのですが、今回はそれで損なわれるような作品ではないと思いました。
ということで以下、ご注意を。

たった30ページから読み取れるものの大きさ。
特に読み終わってからもう一度表紙をよくよく見直してみてください。誰と誰が抱き合っているのか。そこにいるのは何人なのか?
想像の余地が残されているのが好きです。

アンドロイドを一般人も私用で買えるようになった世界を描いて。最後に「人間」をぶっ込んできた作者様。この短さで、本当にすごかった。
読んでいた時間よりも長く彼らについて考えてしまいました。

アンドロイドが自由に手に入る時代に、こんなにも深く愛し合える人間が只々尊い。

弥凪の恋人は海で亡くなったのでしょうか。弥凪の胸の痛みは恋人を失った痛みだったのか本当に病んでいたのか。
葵が亡くなって弥凪が死ぬまでの時間がどれくらいの間だったのか。手にした骨壺からも弥凪の若さからも、それほど長い年月ではなかったのではないかと思います。

アンドロイドの名前はカタカナ。人間は漢字表記です。
「アオイ」と弥凪の別れの時、「ヤナギ」と「弥凪」の区別ができなくなった「アオイ」がショートします。その一瞬にそれまで過ごした「アオイ」と弥凪の絆が垣間見える。弥凪の表情に残した「情」が溢れて。
なのに次の瞬間、それは「ヤナギ」によって引き戻されます。
同じ顔、同じ身体でありながら、血の通った人間とアンドロイドの反応の違いに注目です。
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