羽ばたき Ein Marchen
」のレビュー

羽ばたき Ein Marchen

鳩山郁子/堀辰雄

旧字体旧仮名遣の原作も。1粒で2度おいしい

2022年5月21日
これは本当に人の手で描いたのだろうか。夥しい描き込み。一体どれだけの時間がかかったのか。数えきれない程の数の鳥が空を覆って飛ぶ。他を圧倒する黒がたっぷり使われて、独特の空間があって、鳥の羽音(千羽の?)が効果音に頻繁に使われているのに、静寂さえも感じてしまうU塔周辺と夜のひと気の無さ。塗り籠めたような筆感でない細い何本もの線が原稿の地に入れられて、中身の向きや厚みを加えている。何本もの線はペン画タッチを成し、アート色濃くて、私のような俗物をひるませる。台詞の無いコマも強い瞳や甘さの無い絵で訴えかけてきて気圧されそう。そしてかなり枚数を絞ってきている各コマの中でキャラ達の感情は抑制され、一方では「死」が黒や夜より全体に影響を与え続ける。一種の重さが終始あることが主人公の発散されない感情のよう。断片的な描写を繋ぎ合わせて出口探し。束の間の明るさ。映画「ジゴマ」に魅了されジゴマ「ごっこ」をする子ども世界の象徴シーン。変装という手段で奇妙な「自由」を味わう主人公ジジに私はヒヤリとした。少年達の世界は大人達世界とはパラレルにあって、しかもなお、ジジのやっていることは大人の世界に抵触する。冒頭の黒を途中の白で打消そうとする感じ。同じ町に居ながら両世界は異質。ジジに特別な想いを寄せるキキ(名前!!)。シュールな印象の絵面で、日常ではない=夢を見ている錯覚を起こす展開の中で、遊園地は日常と夢の狭間のよう。羽ばたきは鳩のもの?それだけではない。存在アピール、飛翔への繋がり。
存在を忘れられたジジが鏡に映される場面には凄みを感じた。実像を歪ませ誇張し奇妙に複製する鏡。
可愛い可愛いの絵ではなかった「鏡の国のアリス」を連想してしまった。
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