おさななじみに彼氏ができた話
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おさななじみに彼氏ができた話

パース

一番恐ろしいのは誰か

ネタバレ
2022年5月22日
このレビューはネタバレを含みます▼ 一気に読ませる吸引力のあるすごい作品だとは思う。ただどうしても私には大多数の方が褒め称える「みちこちゃん」が一番恐ろしく感じてしまった。
ゆうまが大谷をおしおきしている場面を目撃し全速力で街を走るみちこちゃんの赤面して興奮し高揚した表情に(作者の意図するところだったかどうかは知りませんただ私にはそう見えてしまった)薄気味悪さを感じ、その後も「みちこちゃん」のやることなすこと違和感や腹立たしさを感じ、ああ、なるほどこいつは私の一番嫌いなタイプの女だと、他の人達は騙しても私は騙されないぞと思ったけれど、でもきっとそんな私は世の中の大多数の人の基準からすると少数派で、「異常」の分類に入るのだろう。だってみちこちゃんは「善」だから。
ゆうまがみちこちゃんに嫉妬した元カノ達におしおきをしていた事実をみちこちゃんは知っていた。その中の一人である「かな」に聞こえる場所でゆうまの名を出し、鈍感な顔で接触し、決して愚かで醜い過去を忘れることを許さない。かながゆうまに助けられたことで自分の中でゆうまによって植え付けられたトラウマと向き合い前へ進もうと思っても、「みちこちゃん」はそれを許さない。わざわざかなに伝えてしまう。ゆうまがあなたを助けたのは全て私が後押ししたから。ごめんね。ちょっと個性が強いけどでも私のためにしたことだから。それがマウントでなくてなんなのだろう。かなとみちこちゃんが会話する昇降口のシーンは本当にぞっとしてかなと同じ表情になってしまった。
彼女とゆうまが一緒にいても平気で家族ぐるみな話を持ちかけ、大谷君がゆうまの家に来ていてもゆうまに誘われたら断らずに同席する。こんな女を目障りと思うのは当たり前の心情なのにそれは許されない。だってみちこちゃんは「善」だから。たとえその「善」によって幾人の人が怯え傷つこうとも。
幼い頃みちこちゃんに「救われた」ゆうまはその後本当の自分を隠し仮面を被りみちこちゃんへの異常な執着から何人もの人の心を酷く傷つける。それは果たして「救い」だろうか。私には「呪い」に感じられた。みちこちゃんによる無自覚の呪いにとらわれた「本当のゆうま」を、解放させられた大谷くんこそが、ゆうまの「救い」ではなかったか。
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